第6章 学園生活の始まり⑧
「それじゃあ仕方ないわね。とりあえずあなたたち二人から模擬戦闘を行ってもらうわ。制限時間とか勝敗とかはなくて、私が『やめ』と言ったらやめてね。もちろん手抜きはなしよ」
しばらく考え込んでからはりまる先生は私たちにそう告げた。
二人というのはもちろん私と炎条君。
お互いすでに変身済みなので、試験の時のような相手が空気を呼んでくれる間はない。
先生はずっと私の方しか向いていない岩島君の襟首を、女性とは思えない力で引きずりながら、コロシアムの端の方へ移動した。
二人を見送るや否や、炎条君が口を開いた。
「この前の様子のビデオ、ついこないだ見たぞ。服はともかく俺の炎でも焼けないなんてすごい体だな、お前」
「いやあ、私もあの時は無我夢中で。南郷さんを守るのに必死だったから自分の様子なんてそこまで気にしなかったわよ。服装以外」
私が履き捨てた一言が彼の頬を赤く染めていた。
炎の赤やオレンジの色に隠れていても、その変化だけは分かりやすかった。
「っ! ああ、あん時は俺も気絶してたし、なんつーかその…………悪かった、な」
「ふふっ。いいのよ別に。さあ、始めましょう。そろそろ合図がありそうだし」
「……そうだな」
照れ隠しににやりと笑うと、炎条君は数歩後ずさって距離をとり柔軟を始めた。
私も便乗して背筋伸ばしたり前後に屈伸したりしてみる。
おそらく久しぶりに意識してやったと思うけど、意外にも何か心持が変わった気がしている。
それに本来の自分の体が硬かったせいか、前屈した時に両手が掌全部地面についたことに小さい感動を覚えた。
炎を纏ったまま背中をそらしている炎条君の姿はシュールではあるけど。
「っしゃあ! 始めっか!」
ブリッジの体勢からバック転で飛び起きた炎条君は、溌剌とした笑顔で叫んだ。
「そうね!」
私も彼に影響されて、同じノリで相槌を返す。
私たちが戦闘態勢に入るのと、その宣告はほぼ同時だった。
「ただいまより、柊木明さんと炎条焔君の模擬戦闘を開始いたします! よーい……」
ピーッ!
ホイッスルの音が止む前に、駆けだしたその一歩によって蹴られた地面からは、まるで狼煙を上げるように濛々と砂煙が舞い上がった。
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