(悪夢2)

 また悪夢を見ている。そう感じている。

 シリカの下町をボクは全力で駆けている。

 汚れた壁の建物、淫靡な色合いの看板、道端でたむろする浮浪者。東洋もまたダウンタウンの雰囲気は変わらない。

 最初はひとりで走っていた。

 やがて角を曲がるたびにひとり増え、ふたり増え、いつしかその人数は膨大になる。

 隣で走る人を見る。

 顔がない。

 顔はないが、それはきっとあの人だ。

 そのままぐるりと見回すと、走っている全員の顔がなかった。

 それでも皆、ボクは知っている人ばかりだと思った。

 顔がないのはボクにとっては、どうでもいいからだ。

 なにしろボクは外国人なのである。いつか帰るのだ。

 だからどうでもいい。

 やがて海に出るための四つ角でボクは足を止めた。

 苔むした石壁にもたれるようにして、汚い身なりの男が立っていた。

「曲がるんじゃねえ」

 汚い言葉で忠告を受けた。

「曲がると死体が船は海賊に襲われる」

「だって曲がらないと駄目じゃないか。駄目だよ」

 いつのまにかボクは十歳の子供に戻っていた。

 駄目だよ、駄目だよ、えーんえーんと泣く。

「先生はなあ。商会同士の争いに巻き込まれて死んだんだ」

 頭上から降りかかってくる声を聞きながら、えーんえーんえーん、と更にボクは泣き続ける。悲しい。悲しい。悲しくて仕方がない。何故悲しいのかはわからないけれど、やはり悲しいのだ。

「オレは仇を討つ。オマエは金と銀のタマゴを産むニワトリをライバループで」

 イヤだ。なにを言っている。賛同はできない。賛同はしない。

 えーんえーんとボクは泣き続ける。

 泣き続ければなんとかなると思う。

 だからこれでいい。

 やがて風景は暗くなり、ボクはさらに深い眠りへと落ちてゆく。

 その先にも悪夢が待ち受けるのかも知れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る