(悪夢1)

 悪夢を見ている。そう感じている。

 日没。

 太陽は地平線の彼方へと姿を消して、辺りはその残滓が漂っている。薄暗いというのに、黄金色の小麦畑が風にさざなみを立てる景色は、不思議とよく理解していた。

 黄金色の景色が続いている。風に穂が揺れて、まるで金の海に波が渡るようだ。

 その中にボクは立ち、黙って山の方を見詰めている。

 こんなにも美しいのにまやかしであるのは、なんて残酷なのだろう。

(その石、キレイだな)

 隣に少年が立っている。浅黒い肌。

 ボクはいつかそうしたように、右の掌に小さな赤い宝石を乗せて差し出した。

(どこで手に入れたんだ?)

(ちょっと見せて)

(オレの宝も見せてやるよ)

 たどたどしい言葉だというのに、母国語のように、スラスラと耳に入ってくる。

 ボクはなにかを話した。

 どんな言葉を口に出しているのかはわからない。。

 意味不明なような気がしたが、それは些細なことだった。なにかを話していることが大事だったのだ。

 相手もわかってくれたのだろう。嬉しそうに顔をほころばせた。

 すると白い歯がこぼれ、浅黒い肌とのコントラストが美しく映えた。

(友だち、トモダチ)

 トモダチ、トモダチ。

 次第に風景が流転していく。

 ボクはなんだかとても懐かしく、なんだか涙が出そうになった。

 なのに、それは醒めれば悪夢でしかないことを、僅かに残る理性がそう告げていた。

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