出会い

 俺は河川敷で散歩するのが日課になっている。


  今の季節、梅の花が風に乗り鼻腔をくすぐる。

  そこに混じる自分の吐く紫煙の香り。

  春を待ち、1年の初めを告げるかの様な桜を探す。

  時期を考えればある筈もなしに、それでも俺は桜の開花を楽しみに歩く。


  そして大きな桜の木の下へ、開花には早く淡い蕾を携え時期を待つ。


  健気で儚い花を待つ。

  

  俺は桜の木の下にある大きめの石に腰を据える。


  「あぁ、咲き誇り春を連れておいで」


  紫煙を燻らせながら静かに呟く。


  いつもは誰も居ないこの場所で、女性と出会う。


  「そこのお兄さん、私に煙草を頂戴な。」


  声を聞きふと上を見上げるとそこには女性が居た。

  見た目は二十歳前半、髪を後ろで纏めている。

  飄々とした中に儚げな印象が隠れ住む不思議な人だ。

  

  「それはいいが降りては来ないのか?」


  「おっと、すまないね。人を見下ろしながら喋るのは良くないからね。」


  彼女は静かに降りる。


  「どうぞ。」


  「助かるよ、私も煙草を吸いたかったのだが生憎切らしていてね。 」


  「それは御愁傷様。」


  彼女は煙草を受け取ると慣れた手つきで火を付ける。


  ふぅ、と細く煙を吐く。


  「自己紹介がまだだったね。私の名前は謎の美少女ちゃんAと呼んでくれたまへ。」


  「そうか、謎の美少女ちゃんAか。」


  「ちょっと待って、人に言われると存外恥ずかしいな。」


  また不思議な女性だな。


  「私の名前は西城 ゆかりと申します。以後、お見知りおきを。」


  彼女、西城 縁は飄々と自己紹介をした。


  「俺の名前は 室戸 まどか、宜しくね。」


  俺も簡潔に自己紹介を済ます。


  「円か、良い名だ。」


  「ありがとう。」


  「それにしても、面白いな。」


  「何が面白いんだい?」


  俺は本心からわからずに彼女に聞いた。


  「縁に円、この様な所で縁の円が出来ちまった事さ。」


  あぁ、言葉遊びか。

 確かに珍しい、俺も意味を知り笑ってしまう。

  

  「確かに面白いな、言葉遊びが好きなのかい?」


  「いや、時代って奴さね。」


  「また古風な事で。」


  「今や時代に取り残されちゃいるがね。」


  「縁ちゃんは若いんだから大丈夫だと思うけどね。」  


  「私は思っている程若くは無いかもしれんよ?」


  「ま、女性に歳を聞くほど野暮な男でも無いさ。」


  「うん、それは良い心掛けだ。にしても円は何しに来たんだい?」


  「意味もなく歩いて来ただけだったんだがね、今は縁を紡ぎに来たことにするさ。」


  「そうか、縁は円となり軌跡を刻む……って所かね。」


  「思っていたんだけど詩の様な言い回しが好きだよね。」


  「さっきも言ったけど時代って奴さね。」


  俺は二本目の煙草を取り出すと彼女にも渡す。


  「これを吸ったら帰るとするよ。」


  「ありがとう、また私に会いたいかい?」


  「あぁ、折角の縁だからね。」


  「なら梅の香る日に煙草を吸いにまたおいで。煙は私とこの世を繋ぐものだからね。」


  「梅の香る日じゃないの駄目なのか?」


  「そうだね、梅の香る季節此処で煙を上げれば私は居るよ。」


  煙草を吸い終わり立ち上がる。

  

  「それじゃまた来るよ。」


  「あぁ、またおいで。」


 立ち去ろうとした時声を今一度掛けられる。


  「ありがとう。私、いや私達を代表して言うよ。」


  私達?




『梅の香る日、えんは縁となりこの世を紡ぎ、私は此処に来る。』



  「どういう事だ?」


  俺は疑問をぶつけた。




  『煙草をもってまたおいで。』




  そう言い残し、彼女は紫煙と共に消えた。

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