第2話:ドラゴンをお持ち帰りしました。

さて、ドラゴンを無事倒せた俺だが、この巨大なドラゴンの死体をどうやって運ぶかと、悪戦苦闘中である。一回、持ってみようと思って腕に力を入れたが案の定びくともしなかった。これでも体は鍛えている方だったのでもしかしたらと思ったのだが無理だった。


俺は他の手段を探したが、結局手段は一つしかなかった。しかも、あまり使いたくない手だ。俺はポケットに入っている長方形のクリスタルのようなものを取り出す。そして、そのクリスタルを軽く拳で殴る。


するとクリスタルは外側の部分が壊れて光の粒子を出しながら光り輝く。しばらくすると、


「どうしたっ!一体何があったんだ、体は大丈夫か!?」


おじいちゃんのとても大きく、焦っている声がクリスタルから聞こえた。


このクリスタルは、緊急通信結晶と言い、名前の通りクリスタルを壊すと伝達の呪文が発動し、短時間ではあるが離れた人と会話ができるものである。・・・あと、それなりに高級で、本当の非常事態以外は決して使うなと言われていた。なのでこんなにおじいちゃんは慌てているのである。


「あー、おじいちゃん?いや、無事なんだけどね。ちょっと頼みたいことがあって、それも早急に。」


俺の普段と変わらない声に安心したのかおじいちゃんは呼吸を整え、


「安心か。ふぅ、それは良かった。で?どうしたのじゃ?」


と言った。そして俺はクリスタル内の光が点滅している事に気付く。これは効果が切れるまでもう少しですよ、という合図だ。俺は慌てて、


「ええと、結晶の残り時間が少ないみたいだから具体的には言えないんだけどとりあえず幻キノコの採集ポイントに荷台をもってきて。あと運ぶための人材。だいたい4人くらいかな。それじゃ!」


と、早口に言った。


「おい!まてっ!何がどうしたか・・・ガサッ・・・ぉぃ・・・ビィィィ!」


どうやら時間ぎりぎりだったみたいだ。


俺は光が消えたクリスタルを森に捨て、おじいちゃんが運んできてくれるであろう荷台を待つことにした。



△△△



しばらく経つと、草を踏み潰す音が聞こえた。あの時のような大きな足音では無い。俺はおじいちゃん達が来てくれたのだと思い、


「おーい、ここだよー!」


と叫ぶ。


その声に反応して、足音がなる間隔が速くなりよく知っている人間が姿を現わす。同じレストランで働いている男4人と・・・


「おお!無事じゃったか。心配したぞ!っていうか、一体なんで荷台が必要じゃったんだ?理由を・・・」


おれがよしかかっているドラゴンをみて言葉を失っているおじいちゃんだ。


「うん、このドラゴンね、なんか襲って来たから適当に包丁で切ったら・・・あ!」


自分の言葉で戦闘に包丁を使ったことに気づく。

そして包丁の刃を確認すると・・・。


全く傷ついていなかった。


奇跡だ。あんなに乱暴な使い方をしても刃がぼろぼろになっていないなんて。


俺は安心して包丁についている血を急いで拭き取り、大切にケースに入れた。


「こ、これは・・・ドラゴン?あの伝説のモンスターであり、食材がなんでこんなところに・・・。」


おじいちゃんはこのドラゴンを知っているみたいだ。


「おじいちゃん、こいつって美味しい?」


ぶっちゃけ俺が気になっているのはその一点だ。食えるならレストランで料理に、食えないなら冒険者ギルドに売りに行く。


「それはもう、俺も食べたことは無いが噂だとかなりの高級品らしいぞ?」


その言葉に嬉しくなった俺は、ドラゴンをレストランに持ち帰る事にする。


その後俺たちはドラゴンの腕、頭、翼、胴体を切り分け、荷台に乗せてレストランに持ち帰った。


レストランについた頃には深夜だったのでもう寝たかったが、血抜きぐらいはしないと肉が腐ってしまうので、しぶしぶ解体に手伝った。


そして、無事に鱗と肉と血に分けられた。血を捨てようとしたところ、同じく解体の作業をしていた男に馬鹿かと怒鳴られたので、不思議に思いながら血はボールに集めた。


解体を終えると皆、一気に睡魔が襲って来たようでこのまま厨房で寝てしまった。



△△△



夜が明けた。


そして、汚くなった解体台を掃除して、肉塊となったドラゴンの肉をロース、サーロイン、ランプ、ももの部分に切り分ける。


おじいちゃんの方を見ると何やら深刻な顔をして俺以外の男達となにやらこそこそと話し合っていた。


「どうしたの?」


俺は気になったので声をかける。


「実はな、このドラゴンなんじゃが・・・。どうやらかなり、いや王族でも滅多に食べることができない食材らしい。なので値段をどう設定するか悩んでいたのじゃ。」


このドラゴン、そんなに貴重な食材なのか。でも俺は別に欲があるわけでは無い。普通の値段でも構わないだろう。


「かなり小さめのステーキにして500Gで1人一個までしか頼めなくして普通に日頃のお礼として出していいんじゃ無い?」


俺はそう提案する。おじいちゃん達は倒した本人が言うなら良いか。と、納得してくれた。


こうしていつもと違う食材が手に入っただけのいつもと変わらない生活がまた始まるーーと、思った。



△△△



「一列にしっかり並んでくださーい!」


俺はこちら最後尾と書かれた看板をもった店のアルバイトの声を聞く。


いつもと変わらないレストラン、そして超、超大行列を作って並んでいる人達。みんなドラゴンの肉を食べてみたい。と言った人達だ。


・・・一体、どうしてこうなってしまったのか。

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