料理人はSランク冒険者よりも強かったそうです。

浮浪人

第1話:ドラゴンを倒しました。

「キャベツの千切り、まだか!」


騒がしい厨房の中に老人の声が響き渡る。俺のおじいちゃんの声だ。


「はい、できています!」


「よし、盛り付けて持ってこい!」


キャベツの千切り当番の俺は、皿に切ったキャベツを綺麗に盛り付け丁寧に、なおかつ迅速におじいちゃんのところに持っていく。


自己紹介をしておこう。俺の名前はクロキ。祖父のクロガネじいちゃんのレストランで料理人をしている。働き始めてもう少しで10年なので、包丁使いなども様になっている。・・・自分で言うことでは無いが。


祖父のレストランは毎日、モンスター討伐で疲れた冒険者が多く寄るので、ほぼ満席だ。なので、休む暇もなくずっとキャベツを切り、肉を捌き、皿を洗いと大忙しである。



△△△



「ありがとう御座いましたー!」


店にいた最後の客が店を出た。

その最後の仕事を終えた料理人達は、「はあー。」と、疲れたため息を吐き、レストランにある椅子に座り込む。

毎日大忙しなので、閉店するときには全員、体力の限界なのである。

俺も、数分椅子に座り水を飲んで休憩し、いつものように片付けに向かった。


皿を綺麗に洗い、しまってから、毎日の習慣である包丁の手入れを行う。

この包丁はこのレストランで働くと言った日におじいちゃんが祝いの品と言って買ってくれた、とてつもなく高く、切れ味が良いものである。

そのため俺はこうして欠かさず手入れをして、けっして切れ味が落ちないように心掛けている。


「ちょっといいかクロキ。」


包丁の手入れを終えて、ケースに包丁をしまい終えるとおじいちゃんが話しかけてきた。


「ん?どうかしたの?」


「実はな、幻キノコが切れてしまってな、悪いが今から森に行って10本ほど取ってきてはくれないか?」


幻キノコというのはなかなかの高級品で、この店で取り扱っているほとんどの料理に使われている。このキノコは出汁に使われるのだ。しかも少量でかなりの量の出汁をとることが出来るため、レストランで重宝されている。

俺は特に用事もなかったので、行くよと言い、採集道具、包丁、あとライトを持って、夕暮れの道を歩き、森へと向かった。包丁は手に持っていないと不安になるからだ。



△△△



俺は薄暗い森をライトで照らし幻キノコの採集を行なっていた。森の中はモンスターが出て危険だが、モンスターも人間は危険だと知っている為、明るい場所にはあまり寄ってこないのだ。なのでまだ一度もモンスターに会ったこと、そもそも見たこともない。


8本目の幻キノコを採集した時だ。

なんかドーン、ドーンという大きな足音が遠くから聞こえてきた。音が聞こえたのだが、俺は気にしていなかった。

そして、足音がだんだん大きくなって俺の方に向かっているのでは?と思ったのは時、すでに遅く、巨大なドラゴンが姿を現した。


「GYAAAAAA!!」


なんと言っているのかわからない大きな鳴き声で俺は自分の身が危ないことを知る。


へ?なんでモンスターがここに?寄ってこないのではなかったのか?っていうか、こんな大きいの?モンスター。


ドラゴンは、俺に向かっていきなり前足で切りかかってくる。

俺は辛うじてそれを避け、これは完全な戦闘だと理解する。


さて、どうしよう。迎撃しようにも俺の持っている包丁は料理の為にあるものだ。おじいちゃんからの贈り物として、料理人として料理以外では使いたくない。刃がぼろぼろになるかもしれないからだ。


しかし、俺の決意はドラゴンによる火炎のブレス攻撃によって簡単に打ち壊される。ごおおおという音を立てて俺のそばの木が灰と化す。


やっべぇぇぇ。・・・ごめんなさい、おじいちゃん!


俺は躊躇いを捨て、ケースから綺麗な包丁を取り出す。そしてドラゴンに向かって走り出す。


お、ドラゴンの鱗にも筋があるのか。なら、これを利用してそっち方向に・・・、あと同じ場所を切っていった方が良さそうだな。


俺は近づきながら攻撃方法を考える。そして心臓のあると思われる部分の皮膚に近づき、鱗の繊維に沿って切る。


キャベツの千切りで鍛えた俺の包丁捌きを舐めるな!


俺は高速に何度も同じ場所を切る、切る、切る切る切る切る切る・・・。しばらくたつと肉の部分に達したのか、血が出てくる。豚の解体を行なったことがあるので、グロいともなんとも思わない。血でぬめぬめしてやり辛い、と思っただけだ。構わず切っていると出血量も格段に増えた。多分心臓に達したのだろう。


ドラゴンは、何故か抵抗をしない。というより、こいつ何やってんだ?みたいな感じの様子だったが、鱗を切られ、肉が切られ始め、さらには心臓まで切られて、さすがにまずい、と思ったのか、ふらふらになりつつも飛んで逃げようとする。しかし、判断が遅すぎた。すでに大量の血液を流してしまったドラゴンは羽を動かしたことにより、より一層出血が激しくなり、倒れてしまった。


随分呆気なかったな。しかし、このドラゴンどうしよう。


俺は自分の十倍以上はあるであろうドラゴンの死体をみて思う。



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