立ち上がれ、長女!

もつを

第1話 立ち上がれ、長女!


 私、新島夏妃は今日、20年間生きてきて生まれて初めての告白をします!


「夏妃ちゃん、ごめんね遅くなって。話って何かな?」

「あの、先輩!」


 バイト終わりのスタッフルームには、私と先輩の二人だけ。少し華がないかもしれないけど、シチュエーション的には申し分ない。


「先輩のこと、好きです!もしよかったら付き合ってください!」


 そして私は、一世一代の告白をした。






***






「で、勇気を出して告白したけどフラれたってわけね」

「みっちゃん、そんな同情するような目、やめてよ」


 私は昨日、人生初の告白をした。相手はバイト先の田中先輩という人だ。彼は大学四年生で、就活に力を入れたいという理由からバイトを辞めることになった。昨日はその最後の出勤日で、もう会えないかもしれないのならと、玉砕覚悟で告白したのである。


「まあでも、告白したことに意味はあると思うよ」

「私もね、付き合えるなんてぶっちゃけ思ってなかったし、フラれる覚悟だってできてたんだよ。けどフラれた理由に納得いってないの!」


 私は大学の友達である坂口満月、通称みっちゃんに告白の結果とその愚痴を聞いてもらっていた。


「先輩、『夏妃ちゃんはしっかりしてるし良い子で僕も好きだけど、どちらかと言うとお母さんって感じで、彼女としてはみれないかな』って言ったの!お母さん!?どういうことなの!?」

「アハハハハッ!!」


 静かに聞いてくれていたみっちゃんがお腹を抱えて笑いだす。みっちゃんの声が食堂内に響いた。


「ちょっとみっちゃん!私は真剣なの!」

「ごめんごめん、その先輩超おもしろいんだけど」

「ってか先輩だよ?年下の私のことをお母さんみたいって……」


 私は先輩の言葉を思い出して項垂れた。ああ、学食のオムライス美味しいなあ。


「夏妃はしっかりしすぎてんのよ。面倒見もいいし、バイトでも結構仕事任せられてるんでしょ?」

「うーん、どうなんだろ」


 とは言ったものの、みっちゃんの言ったとおりだった。私には弟がいるせいか、年下の人や後輩の面倒見はいいほうだと思う。そして先輩がバイトを辞めたあとは私がバイトリーダーに昇格することが決まっている。フリーターの先輩を差し置いて。

 でもまさか自分のそんな性格が恋の足枷になるとは思わなかった。


「夏妃の長女気質がアダとなったってことね」

「好きで長女に生まれたんじゃないし!でも私だって抜けてるとこあるよ?家事とかあんまりできないし……」

「いや、そこはできなさいよ」

「家事まで完璧にこなせちゃったら、本当にお母さんみたいになるじゃん!」

「ギャハハハ!」

「みっちゃん!!!」


 今思えば、末っ子長男である弟は、世渡り上手で特に苦労なく生きている感じがする。そして謎にモテる。私に比べるとクズだと思うんだけど。やっぱり長女であるということが問題なのだろうか。うーん。


「夏妃は逆にダメ男にはモテそうだけどね」

「よく言われる」

「お姉ちゃん持ちの男とかもいいんじゃないの?」

「弟見てるとそんな気は起らないよ」

「分かんないじゃん。案外うまくいくかもよ」

「違うんですよ、みっちゃん」


 私はオムライスを食べるのを中断し、みっちゃんを真剣に見つめた。


「私はね、お母さんとか、そういうのじゃなくて、一人の女として愛されたいんですよ」

「ほう」

「そして私はその彼と手を取り合って、対等に歩いていきたいんです」


 頼りにされるのは嫌いじゃない。勉強を教えてあげたり、バイトで後輩を助けたり、奉仕することも嫌いじゃない。でもそんな恋愛はしたくない。


「じゃあ夏妃が変わるしかないね」

「私が?」

「うん。今の夏妃は、人間的にはしっかりしてるからそこを変える必要はないけど、もっと女子力を上げればいい男も自然と寄ってくるものよ」

「ジョシリョク?」

「女らしさよ。家事ももちろんできたほうがいいし、あとは仕草とか、外見的なところもね」

「お母さんにならない?」

「大丈夫よ、たぶん」

「たぶん……」


 まあ、今の時点でもお母さんみたいって言われちゃったし、やるだけやってみるのもアリかもしれない。


「みっちゃん、私、頑張るよ!」

「よし!私も全力で応援する!」

「いい女になって、一人の女として愛してもらう!そして幸せになってやる!」


 大学二年生、春。こうして新島夏妃の女磨きが幕を開けた。



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