第6話 最初 さいしょ
「どういう事でしょう?」
「分からないわ。でも……」
「でも?」
「私、この人について聞かされた事があるの」
「……何をでしょう」
「この『
「……すみません」
少々ご立腹の
悪い癖だ……。
あの人と暮らしていてよく分かっているはずなのだが、どうにも俺は察しがいいのか悪いのかよく分からない。でも、たまにこうやって人を怒らせてしまう。
当然、俺にそんな気はない。俺は人を怒らせて喜ぶような人間ではないはずだ。
「それで、この『
「……実はこの人。私の会社を作った人らしいんです」
「えっ、それってつまり『創立者』という事ですか?」
「正確に言うと、元々は『呉服店』だったらしく、男性優先だったモノを今の様な女性に焦点を当てた着物を作った方だと聞かされているわ」
「じゃあ、最初はちょっと違っていた……という事ですか?」
「そういう事になるわね」
「そうですか」
「ええ、元々大きな『呉服』を扱っていたらしいのだけど、そこからもっと大きな『会社』の様な形になっても時代合わせて、色々な事に挑戦しながら今に至っているの」
「……なるほど」
「ええ」
俺の記憶が正しければ、今では『洋服』や『雑貨』など『アクセサリー』といった様々な分野でブランド化している。
確かに、このご時世に『呉服』を着ている人は珍しいだろう。
しかし、頭では分かっていてもやはり「ずっと守ってきた『伝統』は大切にしなければいけない……」と考える人もいたはずだ。
でも、この『
そして、その考えを実行できるこの人もすごい。
ここまで
「でも、そのおかげで私の様な
「そうなんですか?」
正直、その言葉に驚いた。
昔であれば、また違った事を言っていたからも知れないが、今の俺は「良い悪いにしろ人の意見は聞くべきだ」と思っている。
もちろんそうしなければいけない職業であれば、その話も分かるけど、
「でも普通は、なかなか
「そうなんですか」
もしそうなのであれば、それはとても悲しい話である。
「それに……何をするにしても『最初』というのは難しいのよ」
「そうでしょうね」
何事も『最初』というのは難しい。それは、誰にでも分かる事ではあるが、人は意外に『変化』を好まない。
「でも、私はその人のおかげで意見が言いやすい環境になったわ」
「それは良かったですね」
そう、何事も『最初』は難しい。しかし、その『最初』を乗り越えてしまえば、後はやりやすい方法を探ることが出来る。
「ただ……」
「?」
突然『
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