13.水球

第1話 不審 ふしん


「まぁ、とりあえず入りなよ」

「あっ、すみません。お邪魔します……」


 俺は、促されるがままその『家』の玄関をゆっくりとくぐった。


「ところで、君は……外国の人……なのかな」

「えっ……。ちっ、違いますけど……」


 玄関をくぐった事を確認したその人は、扉を閉めると……辺りを見渡している俺に向かって声をかけた。


 俺は今まで幾度となくこの間違えされてきている。お陰様でそれに伴う『危険』な目にあった事もあるのだが……それは、今話すべきことではないだろう。


「そっか……。まぁ、そうだろうって思ったよ」

「えっ」


「まぁ、座って……」

「あっ、はい」


 これまた言われるがままその人の指示に従った。


「いや、実はさ。外国の船が今、入国に制限別されていて、さっき話した『レオン』は自分の国にいるはずなんだよ。しかも、つい最近。だから、たった数日で行って帰る事は不可能だと思った……って言うのも、君が嘘をついている……って事が分かった理由なんだよ」

「…………」


 どうやらこの時代は「入国に制限がかけられている」といるらしく、この時代では『船』で来るのも大変な様だ。


 確かによくよく考えたら、この人が『車』や『自転車』を使わず『徒歩』だった事や、草むらで盗み聞きをした会話を聞いた時点で、察しがついていたはずだったのだが、あの時の俺は、そんな事は頭から抜け落ちていた。


 とりあえず言える事は、この時代は『飛行機』も『電車』もない。


 しかも、移動時間に要する時間も『時間』なんて甘いモノではなく、『一日』ないし『一月ひとつき』もざらにかかってしまう。


 いや、下手をすれば、一度この国を離れて、果たして無事に帰って来られるかどうかも分からない。


 もしかすると、嵐に巻き来れる可能性も否定は出来ない……という不便さだ。


 何度も色々な時代を行ったり来たりしているせいか、たまに頭がついていかない事があった。


「それに、レオンさんはいつも『日本文化』に触れるとかなり興奮するからね」

「興奮……ですか」


 様するに今で言う『ハイテンション』という事だろう。


「そうそう。例えば君が着ている『和服』とか今飲んでいる『緑茶』とかさ。たまに『日本語じゃない言葉』を言っている事もあったかな」

「……」


 俺に似た顔の人が、そんな風に興奮している……そんな状況が自分でも正直、想像がつかなかった……というより、想像もしたくない。


「でも、よく見ると君は『ちょっと』顔が似ている程度で、『瓜二つ』という事ではないね」

「そうですか?」


「うん。まぁ、俺がかしちゃったのも悪いんだけどね」

「いえ、あなたが声をかけてくださらなかったら、俺は途方に暮れていたでしょう」


 その言葉は決して『嘘』ではなく本心である。現に、あの場で俺は「どうしよう」と弱音を発していたのだから……。


 しかし、この人は「またまたぁ」と笑顔でだったが、その姿はどことなく『近所の話し好きのおばちゃん』を連想させた。


「でも、そうなると疑問が少し残るね」

「疑問……ですか?」


「うん……。俺から見て君はどう見ても『洋風』の顔立ちだ。顔を覚えるのが苦手でここには最近来たばかりの俺でも、さすがに覚えているはずだ」

「……」


「君は……一体どこから来て、どうやってここまでたどり着いたの?」

「えっ……と。それは……」


 俺の勘が正しければ、この時代は『外国』の交流を極端に制限していたはずだ。


 だからこそ、国中で『外国人』が平然と、しかも『着物を着て歩いている』という事は、ほぼありえない話だろう。


 それ故に、この人の質問は『当たり前』とも思った。


 ただ、どう説明すべきなのだろうか……。


 これまで何度この『説明』について考えてはいたが、結局その『説明すべき状況』に当たっておきながら、結局何の考えていなかった……と俺は今更になって、後悔していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る