第10話 人伝 ひとづて


「……」

「……人間ってさ。自分の考えを曲げるのには、かなり勇気がいるモノだよ」


「えっ」

「だから、何度も言っているだろ? 君は『分かりやすい人間』だって」


「あっ、あの」


 まさか「また口に出ていたのでは?」と感じたが、男性は首を左右に振った。


「今回は違うよ。口には出ていない。でも、表情には出ている」

「……」


「俺は、君と出会ったばかりだけど、何度か会話をしていく内に、俺が勝手にそんな風に思った……。それだけだよ」

「それだけ……って」


 簡単に言っているけどがつまり、この人はずっと俺を観察している事になる。


 しかも、俺が『分かりやすい人間』という事を出会ったばかりの時からすでに言っていた。


「まぁ、そんな事を言っても、君が考えたことの全てが分かる訳じゃないよ」

「……」


 そこまでいったら、俺は素直を通り越して、『自分の考えがだだ漏れの人間』になってしまう。


 さすがに俺が考えている全ては、読まれたくないものである。


「とりあえず、話を戻して……だな」

「はい」


「この『風鈴華』は、催眠作用のある花粉を出す。しかも……」

「?」


 そこでその人は、なぜか言葉を止めた。


「これは人伝ひとづてで聞いたんだけど、この花粉を嗅ぐと、その嗅いだ人の……『家族に関する』忘れてしまった記憶がよみがえるらしんだよ」

「……家族ですか」


「まぁ、あくまで人伝ひとづてだけど」

「そうですか」


 そう言って男性は、そのままスタスタと歩いた。


「それに、そもそもこの『風鈴華』は、珍しい花なんだよ」

「そうなんですか?」


「うん。俺もそこまで植物に詳しい訳じゃないんだけど、そんな事をここら辺に住んでいる人たちが言っていたからさ」

「……そうですか」


 今の「ここら辺に住んでいる人」という言葉に疑問を持った。もし、言葉の通りだとすると……この人は住んでいない……と、とられかねない。


「…………」


 そんな違和感を感じたが、もしかしたら『言い間違い』の可能性もある。


 色々と、この人は俺の事を観察していたみたいだが、この人自身も、少しおかしなところがある様に思える。


 それに、かなり失礼かも知れないが、やはりこの人が『農作業』をする様な人には見えない。


 後、この人の話はさっきから『人伝ひとづて』で聞いた……というモノばかりである。


 普通に会話の中で聞いた……という可能性も十二分じゅうにぶんにありえる話ではあるが……どうしてもこの人の雰囲気はあまり『田舎』という感じがない。


 それこそ、『都』などにいそうな……いや、ご家族の人が『お役人』なのではないか……そういった印象を受けるような雰囲気をしている。


 正直……考え過ぎ……かとも思ったが……。


「…………」


 男性は、俺がちゃんと後について来ているか……確認のするために何度も振り返っていた。


「……」

「あっ、着いたよ」


「えっ」

「ここが『今の家』だよ」


「……ここが?」

「うん。そうだよ」


 そう思いながらキョロキョロと辺りを見渡すと……。


「……嘘だろ」


 男性が案内したそこは、古い『家』というより『小屋』と言ってもいい様な……そんな建物が俺の前に姿を現した。

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