第4話 山道 さんどう


「ガサガサ……」


 あの後、俺たちはさっきまでいた場所を離れ、草をかき分けながら『山道』を歩いていた。


 本当にこの人について行って大丈夫なのだろうか……。


 そんな突然襲ってくる不安にさいなまれそうになる。だが、今の状況で頼れる人は、俺の前を無言のまま歩いている『男性』しかいない。


 それにしても、こんな入り組んだ『けもの道』を通らなくても、普通に人が通れそうな『道』なんていくらでもありそうだ。


 大体、こんな道は元々野生の動物が通って自然に出来るモノなのだから当然『人』が通る……なんて事は考えられていない。


 つまり、かなり通りづらい上に、あえて一言でいうなら「危険」だ。


 それなのに、この人はなぜか普通の人が使っていそうな『山道』をワザと避けている様に見える。


 確かに、何も情報がない現状でこの時代の人に会うのはかなりリスクがあるが……。


 もしかしたらこの人は俺を思ってわざわざこんな道を使っているのかも知れないから、下手に「こんな道通らなくていいですよ」とも言えない。


 それに、俺の記憶が正しければ『時代』によっては『外国』からの侵略を恐れ、『外交』そのものを絶っていた事がある。


 つまり『外国』を敵視していた事があるのだ。


 そんな中で俺は『外国人寄りの顔立ち』をしている。もし、そんな『外国を敵視していた時代』に来ているのであれば、俺の立場はかなり黒に近いグレーだ。


 それこそ『五奉行様』とか『お役所様』とかは勘弁して欲しいところである。


「あっ、ここで道に出るね」

「そう……ですか」


 さすがにずっと無言のまま歩き続けるのはやはり疲れる。


 しかし、男性の言う通り、俺たちはようやく『けもの道』から『道』らしい『道』へと出ることが出来た。


「それにしても……」

「……?」


「まさか、君があんなところにいるとは思わなかったよ。いつも戻ったの? 戻ったら連絡してって言ってあったはずでしょ?」

「えっ? ああ、すみません」


 そんな話をしてあったのか……やっぱり、誰かと勘違いしているみたいだな。


「まぁ、別にいいんだけどさ。そんなに急な用事だった?」

「ええ。まぁ、なにぶん急だったもので……」


「ふーん。そうだったんだ。それなら仕方ないね」

「はい……」


 こういう返しをすればいいんだよな? 大丈夫だよな?


 おそるおそる男性の反応を確かめたが、男性は何事もない様子で出た場所と『道』の確認をしている様だ。


 それにしても……こういった『道』に出るのであれば、わざわざあんな『けもの道』を通った理由が未だに謎ではあった。


「……なんであんな道を選んだのか謎かな?」

「えっ……いっ、いやぁ。そんな事は……」


「ふーん? でも、に落ちてない顔をしているよ」

「!」


 俺は思わず自分の顔を片手で触った。


「どうやら君は、表情に出やすいみたいだね」

「そっ、そんなはずは……」


 そう、俺はどちらかと言えば『表情に出にくいタイプ』だと思っていた。そのため、結構な確率で勘違いをされる事が多いと俺自身は思っていたのだ。


 ……表情が崩れるのは、あの人の前だけだと思っていたのに。


 それがどうだろう。出会って一時間……経ったか経っていないか……そんな人に『分かりやすい』と言われたのだ。驚きもするだろう。


「…………」


 なぜか男性は勿体もったいぶった様に俺から視線を外し、ジッ……と横を見ていた。そこはちょうど俺たちから見て下り坂になっている場所だ。


「? どうかされましたか?」

「うーん。もう一度あの草むらに戻ろうか」


「えっ」


「いいからいいから」

「いや、いいからいいから……じゃなくてですね」


 そう言って抵抗を試みたものの、男性の俺の背中を押す力は強く、抵抗虚むなしく草むらの方へと追いやられた。


「なんなんですか」

「しー。静かに」


「……」

「……」


 男性はそう言うと、俺の左隣に座り、俺の視線お構いなしに静かに目の前の『道』へと視線を移している。


 なんなんだ一体……と突然の男性の行動の真意が分からず、よく分からない疎外感そがいかんを覚えて、俺は少しふて腐れた……。


「……来たね」

「……?」


 そうこうしている内に、二、三人の男性が俺たちが見ているとも知らずに、『山道』をゆっくりゆっくり……と登って来る姿が見えた――。

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