第5話 住民 じゅうみん


「……」

「……」


 俺たちは、息を潜めながらその男たちの会話に耳を澄ませた。


 あの人たち……服装を見たところここら辺の『住民』にも見えるが……腰に刀を差しているのだから、『武士』の可能性もあるな。


 そうだとしたらこの人に背中を押されてよかった……もし、俺が一人でここにいた場合。見つかっていた可能性があった。


「……」

「……!」


 あまり大声で話していないからなのか、俺たちからではあまり聞き取れない。


「……それにしても、ここら辺はあんまり変わらないなぁ」

「そうだな。今頃江戸は大騒ぎだ」

「仕方ないだろ」


 男たちが俺たちの近くを通った事で聞こえてきた会話の中で、俺はその言葉に引っかかりを憶えた。


 今の話から考えられるのは、『幕府』という組織があるという事と、その上に立つ『将軍様』がいると言うことぐらいしか分からなかったが……。


「それにしても……やっぱり『財政悪化』は避けられなかったか」

「いくら『将軍様』とは言え、虫も殺すなというのは……な」

「さすがにやり過ぎだとは思っていた」


 しかし、どうやら男たちは最近の『幕府』のあり方について話しているようだ。


「とりあえず、この道を抜ければもうすぐ『江戸』だな」

「そうだな。最後の一頑張りだな」

「頑張りますか」


 そう言って、男たちは力強く地に足を踏みしめ、勇みよく歩いて去った……。


 なるほど、つまりあの人たちは『出稼ぎ』するためにこの道を通って来た……というところだろうか……。


 やはり、地元で『生計』を立てるのは難しいのだろう。


「……」

「……」


 そんな男たちの後ろ姿を俺たちは茂みに隠れたまま無言で見送ったのだった……。

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