第8話 今更 いまさら


「……だとしても、納得出来ねぇことがある」

「……というと」


「お前が宿題で調べていたのって、昨日今日の話じゃねぇだろ。なんで今『家出』をしてんだ?」

「……それは」


「あっ、言いたくねぇののなら」

「いや、ちょうどいいです。俺も、誰かに話を聞いてもらえたら……と思ったので」


 そう確かに、俺は誰かに話を聞いて欲しかったのだろう。


 でも、誰でもいいという訳ではない。言う人間の選択を間違えてしまえば、その話をした後が大変になってしまうことがある。


 この人は、自分で「育ての親と生みの親が違う」と言った。しかも、俺が言う前に……である。


 まぁ「経験者は語る」とはよく言ったモノで、何も分からない人間より、心強く感じたのだ。


「あの宿題はキチンと終わらせる事が出来、まぁ宿題の方は言葉巧みに事実をうすーくのばしておきましたが」


「……かなりぼかしたんだな」


「実は、俺の生みの親だと言う人が現れたんです」

「……」


「おかしいですよね。今更現れるなんて……」

「それで……?」


「お前は、私たちの子供だ。だから、こちらに来るのは普通だと……」

「とんでもねぇ神経してんな」


「俺も育ての親もそう思っています。でも……」


 産みの親側が「そっちがその気だったら裁判を起こしてやる!」と言い出しているのだ。


「ただ、やっぱりそんな事をしちまうと学校でも広まっちまうんじゃないか……って」

「そうなると……否応なしに注目の的になっちまうって訳か」


 もし、今は広まっていなくても、そんな状態ではいつ学校に広まるか分からない。


 それがもの凄く嫌だったのだ。


「俺は……本当に自分勝手だなって思います。でも、それ以上に学校に広まるのを恐れて、こんな行動をしている自分が嫌で仕方がない」

「……お前は、俺と似ていると思ったけど、全然違うんだな」


「えっ」


「俺は、違うと分かっていながら行動をしなかった……いや、するって事も考えなかった。まぁ……くらいにしか思っていなかったのもあんだけどよ」


 そう言って少年は小さく笑った。


「自分本位なのが嫌で仕方がないって言っていたけど、コレはお前自身の問題だろ。じゃあ自分本位なのはいいじゃねぇか」

「でも……」


「お前がどうしたいのか。結局のところ、それが一番の問題だろ? 育ての親を選ぶか生みの親を選ぶか……。決定権は周りの大人でもなく、親たちでもなく、お前にある。そうじゃねぇか?」


「それは……」


 確かにそうである。


「だったら、裁判うんぬんよりも、自分の言葉でハッキリと言ってやれよ。それが一番すっきりするだろ? お前が」


 そう少年が言った瞬間、キラッと流れ星が俺と少年の間を走り抜けた。


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