第7話 修理 しゅうり
「っ! なっ、なんだコレ!」
俺は思わず、自分の座っている場所をさすった。だが、その感触は目の前に写っている景色が変わっても、何も変化はない。
しかし、さすがに周りの景色が突然変わってしまえば、余程鈍感か元々知っている人間で無い限り、驚いてしまうだろう。
俺も、突然の変化に驚いた。
「なんだコレとは失礼だな。ちょっと景色を映し出しただけじゃねぇか」
つまり、コレは目の前の景色が変わっただけで、『移動』したわけでは様だ。その事実だけでも、俺はホッと胸をなで下ろした。
「こっ、コレは一体」
「あー、ここは『骨董店』なんだよ。で、俺は修理を専門的にやっているんだ」
「はぁ、なるほど」
口では「なるほど」と言ったが、今の修理を専門にやっている……という話は、この状況の説明にはなっている様には思えない。
俺自身、『骨董店』に入ったこと自体なかったが、俺の知っている『骨董店』の知識では、少なくともこういった状況になる様な事はなかったはずだ。
それに……辺りを見渡す限り、ここは『夜空と星』しかない。確かに、ただ見ているだけであればただただ『綺麗』で話は済んだだろう。
でも、残念なことに俺は感動する事が出来なかった。それは決して『人工で作られた景色』だから……などという理由ではない。
「…………」
チラッと下を見ると、そこには境目など存在していない。しかし、なぜか下にはミニチュアサイズの『家』の様なモノがあった。
それが、俺にとってはいらないモノだった。その『家』がせいで、その建物と俺のいる場所の『高さ』が分かってしまったのだ。
「……ひっ」
実は俺は高いところが……大の苦手だった。だが、そういう人に限ってなぜか『下』を向きがちなのである。
まぁ、そんな訳でこの時の俺は、本当は今すぐ逃げ出したい気分だった。
「でもまぁ、ここまで変なモノを扱っているのはないと思うけどな」
しかし、少年はそんな怯えている俺を一切気にすることもなく、呑気にそんな事を言いながら上の方を見上げ、星を見ていた。
なぜこの人は平気なのだろうか……。
「いや、こっちの話だ。で、コレは『
「てっ、
「ああ……って、なんでお前はずっと地面に手を当てているんだ? 別に瞬間移動した訳じゃねぇんだぞ」
「いっ、いやー。なんで……ですかねぇ」
そう言いながら俺は地面に手をピタッと付けたまま「あははは」とワザとらしく笑った。
少年は「変なヤツ」と言っていたが、その間も俺は床から手を離すことが出来ない。
「……と言うか『
「まぁ、簡単に言えば『プラネタリウム』の
「わっ、和名?」
「英語やカタカナ用語ではなく、日本語で言うと……って言う意味だな。まぁ、そもそもここで売っている商品はほとんど『
「へっ、へぇ」
「ああ。しかも……」
「しかも?」
「いや、なんでもねぇ」
「??」
そう言って少年はそのまま顔を伏せてしまった。
「あっ、あの」
「……なんだ」
「なんで、こんなモノを今付けたんですか」
「……動作の検査をしなくちゃいけないっていうのと……お前に見せたかったんだよ」
「……俺に? なぜ?」
「俺たちの悩んでいる『問題』なんて、ちっぽけなモノだって言いたかったから……かな」
「星空でも見ればそんな『問題』も解決出来ると?」
「そんな事は言ってねぇよ。ただ、一人で抱え込むんじゃねぇよって言いたかっただけだ」
「……なんで、そんな事を」
赤の他人の俺に……?
そう、俺はついさっき会ったばかりの『赤の他人』でしかないはずだ。ここまで気にかけてもらう道理もない。
「……さっきも言ったとおり、俺は育ての親と生みの親が違う」
「なぜそれを?」
「……お前が外でカバンを漁っているときに見えた『紙』が……な」
「……見えた……と」
「一瞬あれば、憶えられちまうんだ……。あんまりいい事じゃねぇけど」
「……」
そう、俺は宿題で『自分の生い立ち』について調べた。
「俺はそういった事をあまり気にしたことはなかった。言っちゃ悪いが、育ての親と生みの親が違う事は、結構あったからな」
そうか……。
そういえば、この少年は過去から来たと言っていた。確かに、今では『異質』だと言われるこの状況も『普通』だった時代があっても不思議ではない。
「……あなたにとってはそれが『普通』だった……と」
「でも、この時代ではこれは『普通』じゃねぇんだな」
「……」
少年にそう言われると、俺は何も言うことが出来なかった。
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