第3話 冷静 れいせい


 最初はただの『疑問』だった……だから知りたかったはずだ。でも、今の俺はその『事実』を自分の中で飲み込めきれていなかった。


「……ふぅ」


 確かに、俺は両親が今まで育ててくれたことには感謝している。


 そりゃあ、あの人たちにも思うところがあって今まで黙っていたのだろうとは思う。


 それでも、やはり「何で言ってくれなかったんだ」という思いと「今まで育ててもらった」という思いの両方が俺の中で渦巻いているのだ。


 確かに『十人十色』という言葉があるように、人それぞれ『個性』と言うモノがあることもよく分かる。


 だが、俺が育ってきたこの状況は、周りから……いや、世間一般的に見て確実に『普通』とは言えない。


 しかし「普通……っていう事がそんなに大事?」と言う人も当然いるだろうが、俺からしてみれば、そんな事が言えるのは、多分。そんな事を言う人自身が『普通』と呼ばれる環境にいるからこそ、言える言葉だと思うのだ。


「ん……?」


 突然、何やら滴が落ちたと……思い、空を見上げると……


「うわっ!」


 分厚い雲のある空から大量の『水』が降って……いや、『雨』が降り、俺の顔に降り注いできた。


「やっ、やべぇ!」


 とりあえずどこかで雨宿りが出来る場所を探さなければならない。


 でもどうしてか人間、予期せぬ事が起きると、状況を把握する事に精一杯になり、パニック状態におちいってしまうことがある。


 俺が『予期せぬ状況』におちいった場合。


「さて、どこか雨宿りできる場所は……」


 どうやら冷静になる傾向にあるらしく、友人たちに言わせるとそこら辺『きもわっている』らしい。


 しかし、ここら辺はコンビニもなければ……いや、そもそも『店』って呼べそうな場所すらなさそうだ。


 そう、いくら俺に周りを見る余裕があっても、周りに『雨宿りが出来そうな場所』が無ければ意味がない。


 でも、いくら探しても周りには『人の家』しかなく、他に雨宿りをするには適している場所がある様には、見えなかった。


「おっ」


 そんな時、俺は『古い建物』を見つけた。


 俺はその時学生服を傘代わりにかぶって使っていた為、やや視界が悪くなっていたが、その『建物』は視界が悪くなっていてもすぐに気がつくほど、ダントツで古く、かえって目立っている。


「とりあえず、行ってみますか」


 他によさそうな場所もなかったで、俺は持っていた荷物とともにその建物へと意気揚々と小走りで近づいて行ったのだった。

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