第7話 花畑 はなばたけ


 正直、僕たちの様な『動物』はどうしても『本能的』に行動してしまう事が多い。


 思わず夢中になって探してしまった……。


「…………」


 後ろを振り返ると、さっきまで辿っていたはずの『白い点』は綺麗サッパリ無くなってしまっている。


 思わず夢中になって探して辿り着いた場所は――秋桜やカスミ草、水仙など、白い花が咲き乱れている『綺麗な花畑』だった。


「ガサガサ……」


 ゆっくりと……しっかりと僕は歩みを進めていった。


 花畑を歩いたことはなかったが、いつもの道路とは違いを歩みを進めている足に感じていると……。


 ――そんな花畑の中に、一人の『男性』が立っているのが見えた。


「……珍しいな」

「!」


 その男性は僕に向かって……歩いては来なかった。


 どうしてそうしたのかは知らないが、その代わり……という事だろうか、その人は僕を小さく手招きしている


 しかし、僕はそんな『手招き』をした事よりも、その男性があまりにも『白い』事に驚いた。


 なぜなら、その肌はもちろんの白雪の様だったが、その肌以上に、髪の色や着ている服までも、『真っ白』だったのだ。


 しかし、なんというか……。


 あまりにも『しろぎる』ため、その男性が、どうしても全体的に『ぼんやり』と浮いている様にすら見えた。


 いつも白黒の世界にいる犬の僕ですらそう思ってしまうんだから人間の舞さんが見たら、もっと違った印象を受けていただろう。


「……それにしても、最近の犬は『足袋』を履いているのか」


 僕が近づいた瞬間。男性は、何やら感心した様に、チラッと僕の足元に目を向けた。


 でも、あんまりそんな言い方はされたくない。それに、コレは『足袋』じゃなくて『靴下』だ。


 僕は、ふて腐れて様にプイッと顔を横に向けると、その男性は……。


「あはは、ごめんごめん。こんな言い方はしちゃいけないよな」

「!」


 ――突然そんな事を言われ、僕は思わず男性の方を向けた。


 確かに、今まで僕思っている事を「何となく」で当てた人はいたが、ここまでハッキリと僕の言いたいことをピタリ当てた人は、実は今までいなかったのだ。


 この人は……。


「どうやら君は、なかなか頭がいい……いや、察しが良いって行った方が良いかな? まぁ、何にせよ。ご名答……って言えばいいのかな?」

「……」


 何が面白いのか分からないが、男性はなぜか「クスッ……」と小さく口で笑っている。


「ああ、そうだ。実は俺……君たち動物の言葉が分かるんだよ」

「…………」


 あまりにも、男性の言葉がドンピシャに当てはまっていたので、もしや……とは思っていた。


 それでも『人間』であるこの人に『察しが良い』や『頭が良い』と言われるのは、少し違和感を覚える。


「あっ、後……」

「?」


「コレは付け加える事なんかじゃないと思うけど……」

「……」


「俺は舞の……兄……つまりお兄さんになんだよね」


 その言い方は決して、改まった言い方でもなく「ただ普通に……何気ない一言」という風に、サラッと僕に向かって言ったのだった。

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