第8話 冷静 れいせい


「っ……」


 俺は目の前の光景が信じられなかった。なぜなら、突然目の前にいた子供が姿を消したのだ。普通であれば驚くだろう。


「…………」


 しかし、なぜか少女は全く動じることなく、いや……その様子は何かに『気が付いて』いる様にも見える。


「……あんたは、驚く事をしねぇのな」


 ただこの人が何に気が付いたかは分からないが……。


「あら、そうかしら。まぁでも、あまりにも跡形もなく消えたのは、『さすが』の一言だと思ってね」


「……はっ? 何がだ?」

「えっ?」


「いや、今『さすが』って言った理由だよ」

「理由も何も……『神』と呼ばれる存在であれば、一瞬でこの場から立ち去ることくらい雑作ぞうさも……」


 これにはさすがに、驚きが隠せない。


 なぜなら俺は、あの子供をずっと『座敷童』だと思っていたのだ。だが、『神』と呼ばれる存在だとすれば、俺はひどい勘違いをしていたことになる。


「…………」

「……って、どうされたの。そんなに驚いて」


「今の子供って『座敷童』だよな?」

「……えっ、まさかあなた」


「……」

「……」


 無言のまま俺たちは固まった。


 しかし、少女が言いたい事は「ずっとそう思っていたの?」と言いたかったと思う。


 ただ、少女は気遣って何も言いはしなかったが、その雰囲気だけでそう言いたいという事が分かっしまった。


「…………」

「……そうね。あの子は自分の自己紹介をしていなかったものね」


「でっ、でも。座敷童ざしきわらしじゃなかったら、あの子は……」

「だから、あの子は私たちが『神様』と呼んでいる存在なのよ」


「いや、どう見ても普通の子供にしか」

「一応言っておくけど、『座敷童ざしきわらし』も普通の子供とは違うわよ?」


 正直「揚げ足を取るんじゃねぇよ」と言ってやりたい気分だが、少女の言っている事は間違っていない。


 俺がそんな事を言ってしまっては、ただの『理不尽りゆじん』や『言いがかり』でしかない。


「それに……」

「……?」


「実はね。あの子……手首に『印』があったのよ」

「……印?」


 思い返したところで、そんなモノがあるとすら思っていないのだから、気づきようがない話ではある。


 しかし、少女はそれに気が付いた。それはまぎれもない事実だ。


「まぁ、気が付かなかったのも無理ないわ……」

「……」


 そう前置きをすると、少女は少し息を吐きながら思い返す様に天井を見上げた……。

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