第5話 病気 びょうき


「…………」


 とりあえず、『重い病気』だということは分かったが……。


 正直、俺には『その情報』しか分からない。しかも、どんな病気だったとしても『必ず治る』というなんて言えない。


 見つかった状態や進行……色々な関係で悪化してしまったり、併発してしまったり……する事がある……と聞いた事があったからである。


 だが、それも……技術の向上と医療いりょうの進歩の賜物たまものによって時代を追うごとに改善されているが、この『時代』で……今のこの現状でその事を言っても何も意味はない。


 なぜなら何らかの方法でその『技術』を手に入れ、この時代で偶然『そういった技術が使える医者』がいたとしても……だ


 じゃあ、使っても良いか……とかそういう次元の話でもない。


 たとえ『技術』があっても、そして『使える人』がいても意味がない話だ。


 それにもし、人に知られてしまったとしたら、この時代の流れが壊れてしまい、『未来』にすら影響を与えかねない。


 つまり、この時代にないモノや出来事があってはいけない……起きてもいけないし、起こしてもいけないのだ。


 ついでにこの子供が言っている『病気』が、時代によっては治ったかもしれない。


 だが、果たしてどういった事をすれば『治る病気』なのか……そもそも医者でも薬剤師でもない俺にはサッパリ見当もつかない。


 ただこの子供が、『病気の進行』を遅くする『治療薬ちりょうやく』をこのくず風呂敷ふろしきを包み、その『効力こうりょく』を高めようとした……その気持ちも……分かる。


 そのやり方は決して……褒められたものではない。


 言ってしまえば、この子供がした事は『窃盗せっとう』でれっきとした『犯罪』行為だ。


 だが、この『くず風呂敷ふろしき』を買うには、お金が必要であることは確かだ。でも、この子供では『お金』を持っているのかすら怪しい……。


「……ごめんなさい」

「ん?」


 小さな声で謝りながら、『座敷童ざしきわらし』は『くず風呂敷ふろしき』を綺麗に折りたたんだ状態で俺の前に差し出した。


「……コレは?」

「私はあの人のために……そう思っていたけど、でも……それは違う様な気がしたから」


 要するに「これは返します」と言いたいのだろう。


 まぁそれは、確かに元々はここにあったモノだが、この子のそういった話を聞いておきながら……何もしない……というのは、逆に申し訳ない気が……。


「……当然、何もしない……なんてしませんよね?」

「っ!」


 俺は、聞き覚えのあるはず『とある人物』の声をサラッと流そうとした……つもりだった。


 だが、残念ながら「聞かなかった事にしよう」と思ってしまった時点で実は、「聞き流せていない」のだ。


「はぁ、どうせ無視したところで勝手に話を進めちまうんで、一応聞くけど……なんでいるんだ。あんた」


 俺は、扉の前で寝巻ねまきのまま仁王におうちで両手を組んでいる『ある人物』にため息交じりに尋ねた。


 その尋ねた『人物』とは、この骨董店の店主で……俺を助けた物好きな……いや、この際『変人』と言ってやろう……。


 なぜなら、いつもとは違い、この不思議な状況になぜかにこやか笑っている黒髪少女がそこに立っていたのだから。

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