第2話 移動 いどう
「…………」
目を覚ますと俺は無言のまま辺りをキョロキョロと見渡した。
ただ俺から見て左側には、囲炉裏があり、その更に奥には……何かあるようには見える……が、それが『何か』は確認が出来ない。
そして、その逆側には、古びた木製の扉が閉まっている所を見ると、おそらく隣は、ここと似たような部屋があるのだろう。
「ここ……どこだ?」
ただ、俺にはこの先ほどから目の前に広がっているこの景色に、見覚えなどは全くない。
「あー……」
息を吐くようにつぶやくと、自身に何が起きたのか徐々に思い出してきた。
そう、あれは確か目を覚まし、なぜか俺は満月が輝く川辺に倒れており、そのタイミングで黒髪の少女に出会ったのだ。
「……つーか」
辺りを見渡しがその時に出会った少女の姿がどこにもない。気になったところで俺はようやく体を起こしたのだが……。
「いっ……!」
しかし、突然体中にはしった激痛に驚き、そのまま布団に倒れた。
「……っ!」
自分自身の体のことでありながら、この『激痛』が『どこから』きているのか全く分からない。
「はぁ……」
ただ、このままでは普通に動くこともままならないな……。
そう思いながらため息混じりに、とりあえず自分の肩を押さえたまま、高いか低いかも分からない木製の天井を見上げた。
「あっ、目が覚めたんですね」
「ん?」
突然聞こえて来た声に俺は聞き覚えがある。
「大丈夫ですか?」
その姿を見て、俺はようやく自身の耳に確証を持つことが出来た。
「あー、すみません。まだ痛みはあるけど、まぁ大丈夫だ」
「痛みがあるのに大丈夫なのですか?」
どうやらこの少女は変なところで真面目らしく、心配そうな表情を見せながら桶に入った手拭いを「バシャバシャ」と水につけている。
「……いや、体力とか精神的な話だぞ」
「そっ、そうですか。よかったです」
そんな心配そうな顔をしている少女に、俺は少し困った。まさか、言葉足らずのせいで余計な心配をさせてしまったとは思いもしなかったのだ。
どうやら俺は、言葉足らずなところがあるらしい……。
「なぁ」
「はい?」
「なんであんたは、あんな場所にいたんだ?」
「えっ」
こんな年端もいかない少女がなぜあんな場所にいたのか……。
ただそれは単なる疑問以外のなんでもなく、別にはぐらかしてもらってもよかった話なのだが……。
「えっ」
なぜか少女は俺の質問にものすごく驚いた表情で、手に持っていた濡れた手拭いを思わず落としてしまう程動揺していた。
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