第7話 自由 じゆう
秋の息吹を感じ始め、少し肌寒いかもと思い始める……そんなある日――――。
私たちは一緒に昼食を取ろうという話になり、私は久、樹利亜とその昼食の準備をしていた。
「それで、明後日なんだけど」
「それでしたら……」
準備をしている間も久と樹利亜さんは『女学校』の授業内容などについて色々と話をしていた。
「ねぇ……久」
「ん? どうした?」
そんな時、私は久に簪について聞いてみた。
「あっ、これ? これがどうかしたの?」
「えっと……それ、いつも付けてくれているけど、気に入ってくれたのかな?って」
「…………」
その言葉を言った瞬間、私はすぐに自己嫌悪した。
なぜなら、簪を贈った張本人が言うのは……ちょっとおかしいかもしれない……と感じていたからだ。
でも……そう思ってはいたものの、やはり気にはなる。
前に私に家の前を通った時、近所の
しかし、いつも私に会う時は付けてくれているのが「本当に自分の意思」なのか……それが、実は少し不安だった。
「うーん。お母様が『女の子は長い髪じゃないといけません!』って言われているから」
「あっ、そうなのですか?」
どうやら、樹利亜さんはその事は知らなかったらしく、少し驚いていた。
でも、確かに女性でも髪を短くしている人も増えてきている。そんな今の世の中で『長い髪じゃないといけない』っていうのは……やっぱりお家柄も関係しているのだろう。
そう思えなくもない。それくらい、今の時代は、ほんの少しずつようやく自由が生まれてきていた。
女性の髪形の変化も、ようやく生まれてきた『自由』によるモノだったのだろう。
「うん。でも、長くしないといけないけど、やっぱり色々と邪魔になっていた事が多かったから、本当にありがたいよ」
「……そっか。でも」
「ん?」
「何かおかしいと思っているところとかない? たとえば、花の色が変化する……とか」
コレを渡し時に見た花の変化に、もしかすると、久自身気づいているかも知れない……。私はそう感じていた。
「? ううん。特に何も? ねぇ?」
「はい。特にそういった目に見えた変化はありません」
「そっ……か」
しかし、どうやら『簪』は……いや、特に『飾り』の変化は、女学校に行く時は一切なかったらしい。
「ん? 樹利亜さん。目に見えた変化……とは? 何か目に見えておかしなところがあると?」
「はい。挿す方向が逆になっているという所ですが……」
「…………」
「…………」
「えっ! 嘘、逆なの!?」
「今、直すので動かないでください」
「……」
樹利亜さんに簪を直してもらっている久の姿を見ながら、私は無言で見ていた。
ただ、『
これまで私は、久と話をしている時、何度か『楽しい時は、花が色づいている』や『元気がなければ花がしぼむ』など色々な変化を見てきた。
「でも、どうしてそんな事聞くの?」
「いえ、何でもありませんよ? ただ、ちょっと気になっただけ……です」
「そう? それならいいけど。それよりもさ……」
久はキョトンとした顔だったが、すぐに身を乗り出して、話題を変えた。
「…………」
周りの人間の反応といい、今の久の反応と言い……どうやらこの簪の変化は私にしか分からないらしい。
でも正直、それが分かると……ちょっと、優越感を覚える。
「ん? どうしたの?」
「いや? 何でもないよ?」
私は、にやけそうになった自分の顔を久と樹利亜に気づかれない様に取り繕う様に顔を下に向け、すぐに元に戻した。
「……変なの」
でも、私はこの時考えていなかった。その時は、まだ何もかもが試行錯誤を繰り返している状態で、その中でようやく『自由』が出てきた事……。
そして、久は……そのようやくみんなが手にしていた『自由』も、まだ手にしていない厳しいお家柄だという事を――――。
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