第5話 呆気 あっけ


「……まるで嵐だったな」

「そう……ね」


 実は二人が帰った後、今まで起きた出来事に、少女と少年は呆気にとられていた。


「それにしても……。あなた、何か物事を言うにしても……『あれ』はあまりにも直球過ぎよ」

「……」


 少女はチラッと少年の方を見ながら言った。


 そう、少女の言う『あれ』とはさっきまでいた女性とのやり取りの事を言っている。


「まぁ、言いたい事は分かるわ。それに彼女……『さち』さんの言葉は、さっき来た人を『独占』したいっていう気持ちから来るものだってことも……」

「まぁ、俺の言葉も態度もよくないっていうのは自分でもわかっているけどよ。あんたの言葉や態度もなんつーか、いつも回りくどいっていうか……」


「だからと言って直球で言えばいいって事でもないでしょ?」

「それは自分でもよく分かっているって」


 確かに、少女はさっする様にとか、悟らせる様に……とわざと言いたい事を相手に気づかせる様に仕向けるような事をよくする。


 しかし、少年はどちらかというと直球で言ってしまうところがあった。


「ん……? ところで、今の『彼女の言葉は、さっき来た人を『独占』したいっていう気持ちから来ている』ってどういう事になんだ?」

「えっ、まさかあなたそれを分かっていてあの言葉を言ったんじゃないの?」


 少女が驚いた様に、少年を見返したが当の本人は「何のことだ?」と全く分かっていない様子でキョトンとしていた――。


「……はぁ、分かっていないならそれでいいわ」

「いいのかよ。それ」


「まぁ、いいのよ。そんな事より……あなた、あの絵を見た時。うろたえ過ぎよ」

「……いや、あれは驚くっつーの」


 少年は、少女の言葉を聞き終えると少し間を置いて訴えた。


 実はあの『絵』には三人の女性が描かれていた。その内の一人を見て、少年は思わず驚いてしまったのだ。


「そこまで?」

「そこまでだよ! だってよ。あの絵に描かれていたのって……」


「……言っておくけど『真理亜まりあちゃん』じゃないわよ」

「それは分かっているっつーの」


 少女は少年の言葉をまるで読んでいたかの様にサラッと答えた。当然、少年は文句を言った。


「いや、でもあそこまでそっくりな人っているのか?」

「そうね。一番可能性としてあるのは『ご先祖様』ってところでしょうね」


 その後、少女は少年にも聞こえないものすごく小さな声で「だって今は彼女と縁があるのだから……」と呟いた――。


 しかし、その言葉はあまりにも小さい声で言った。しかも、少年は今までの事を頭の中で必死に整理している状態だった為、それどころではなかったのではあったが……。


「つー事は……やっぱり、本人って事は?」

「確実にないわね」


 少女はキッパリと言い切った。


「考えてもごらんなさい。周りの環境から考えて、真理亜まりあちゃんがいた時と、今の時は全然違うでしょ?」

「……だとしたら、あの『観察力』も健在なのか? いや、ご先祖様は別なのか?」

「どうかしら? 私も会ったことがないから分からないわね」


「ふーん。でももし、あったとしたら今回も上手くいくんじゃね?」

「それはどうかしら」


 少年の言葉を遮る様に少女は即座に答えた。


「いくら『観察力』があっても全てを指摘するのは無理があると思うわ」

「あー、確かに大きな事ならまだしも……、あまりにも小さい事……ましてや靴の左右の履く順番みたいな小さな事をイチイチ指摘するのは難しいっつーか、無理な話だな」


 そう、何となく出来たとしても完璧にそこまで言い当てられればそれこそ『預言者』や『悟り』になってしまうだろう。


「毎回上手く事が進むとは限らない。それに……」

「ん?」


 少女は小さなカゴに入っていた『かんざし』を一つ適当に取り出した。その手にあったのは『桔梗ききょう』の飾りが付いていた。


「そういえば、この『かんざし』って」

「ああ。朝顔あさがお……だったか」


「彼女はこれを買った理由……」

「その人に似合うと思ったから……とか、そんなもんだろ? 理由なんて」


「そうね。ただ、数多くの『かんざし』からあれを選んだのは偶然だってあの子は思っているでしょうけど」

「……単なる偶然だろう?」


「……本当に『偶然』だったのかしら?」

「はっ?」


「もしかしたら『本能』って事もあるかもしれないわよね……?」

「いや……それはさすがに」


「あら、あなた言ったじゃない。『絶対ありえない』自分で言った事を否定は出来ないはずでしょ?」

「……」


 少女はイタズラっぽく少年が、あの人の前で言った言葉を繰り返すように少年に向かって笑顔で言い放った。


「はぁ……。あんたも人の言葉をよく揚げ足取るよな」

「うふふ。お互い様よ」


 小さく笑いながら少女はそう言い、少年はそんな少女の姿を見ながら大きなため息をついたのだった――。

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