第2話 爆裂魔法 三発目
今日は冷たい雨が降っている。
昨日の件を調査したい所だが、水を苦手とする我が身体…。
こんな時は、なるべく外出を控えたい。
…というわけで、今日は半日かけて別のプラモデルを組み立てている。
決して、これを作りたいので仕事をサボる口実に、雨天である事を利用している訳ではない。
…誰に言い訳をしているのだ?俺は?
今回のは昨日の物よりも、かなり小さい。
箱に書かれた異世界の文字は読めないが同じ箱に描かれた絵と、ここまで組み上げた姿から察するに異世界の船の模型の様だ。
前回の持ち主とは別人だが、今回もニホンという異世界から来た勇者の持ち物だったらしい。
…らしいと言うのは、既に確認がとれない状態だからだ。
察してほしい。
また文字の翻訳を魔術師にして貰った所、この船の名は
”ダイワ”
と呼ぶらしい事が分かった。
…魔術師自身は、かなり自信が無い様子で…もしかしたら間違っているかもしれません…と言われた。
まぁいい…格好が良ければ名前の間違いなぞ些細なことだ。
呆れたことに、この船は説明を翻訳した魔術師によると鉄で出来ているらしい。
しかも巨大で、例の駆け出しの冒険者の集まる街の外壁から反対の外壁まで届きそうな長さはあるそうな。
…馬鹿を言え、そんな代物が鉄で造られて水に浮くものか…。
そう言ったのだが、魔術師はこう答えた。
…ベルディア様、この船は水に浮かぶのでは御座いません。空を飛ぶのです…。
うそーん。
確かに箱に描かれた絵では、夜空を飛んでいる様に見える。
それに船体の横に小さな翼の様な物が付けられる様になってはいる。
しかし、船体と比べると生まれたてのヒヨコについているかの様に小さいぞ?この翼…。
もしかして魔法を使って飛ぶのだろうか?
どんだけ魔力が必要なんだ?この船は?
しかも船首にある大きな穴から雷にも似た攻撃魔法を放つらしい。
真実であれば、あのデストロイヤーと互角に渡り合えそうな船だ。
なんで、こんな物騒な物を所持している異世界から来た勇者が、あんなに弱いのだ?…正直、理解に苦しむのだが?
こんな小さな物なのに組み立てるのに夕方までかかったのには訳がある。
前回の物は、部品同士をはめ込んで組み立てる事が出来たのだが、今回の物は事情が違った。
一緒に箱に入っていた銀色の小袋の中に透明なスライムの様な物が入っていたのだが…。
このスライムのような物は、小袋から
この特性を利用して部品同士を貼り合わせるらしい。
貼り合わせては乾かし、また貼り合わせては乾かすのを繰り返していたら、こんな時間までかかってしまったのだ。
だいぶ苦労したが、それも今報われようとしている。
最後にこのパルスレーザー砲塔という小さな部品を貼り付ければ完成なのだ。
このパルスレーザー砲塔が四つくらい、まとめてある部品なら貼り付けやすいのだが…。
これは生憎と砲塔ひとつの部品なので、えらく小さい。
持つ手が、ぷるぷると震えてしまう。
だが、もう少しだ。
もう少しで、届くぞ…。
はぁはぁ…。
「『エクスプロージョン』ッッ!!」
どぅわあぁーーーーーーーーーーーっ!
部品を落っことしたあぁっ!
どこ、行ったあぁっ?!
…。
あれから配下のアンデッドナイト達にも手伝って貰い、最後のパルスレーザー砲ひとつをしらみ潰しに探したのだが…。
結局見つからなかった。
くそ、あのアークウィザードめ…。
雨さえ降っていなければ、追いかけて、捕まえて、見つかるまで探させて、見つかったら股裂…八つ裂きにしてやるものを…。
だいたい何だって、こんな冷たい雨が降っている時にまで来るのだ?
頭がおかしいんじゃないのか?
…雨でなければならない理由でもあったのだろうか?
未完成の船体を見ながら意気消沈していた俺は、ふとある事を思いついた。
真綿を持ってきて、パルスレーザー砲を一つ貼り付ける予定だった場所に、その綿を取り付ける。
そこには被弾して煙をあげながらも、雄雄しく空を舞う戦う男たちの船の姿があった。
美しい…。
この美学に出会わせてくれた、あのアークウィザードの少女に感謝を…
するかっ!ボケェーーーーーッ!!
…しばらく泳がせて様子を見ようと思ったが、そうもいかない様だ。
しかし、あの街の周囲の至る所で漂う神聖な力の気配も気にかかる。
正面から行くのは、どうにも気が引けてしまう。
仕方がない…。
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