第二章 魔断の射手
第22話 ブラッディ・ナイトメア
陽の差し込まない地下牢に少女の絶叫が木霊する。
冷たい石造りの床に投げ捨てられた少女は苦痛と恐怖に支配されていた。
薄暗い牢が小さな蝋燭の灯で照らされ、その場に満ちる残虐を晒しだす。
少女は煌びやかなドレスを着せられ、髪は丁寧に結われ、爪の先に至るまで美しく整えられていた。
――その全てを凌辱する毒々しい赤。
牢の床に、壁に、天井に、あらゆる場所に散った夥しい血痕は全て少女から流れ出たものだった。
少女がこの牢に囚われて既に数日が経過している。
その間、少女の悲鳴が途絶えたことは一時たりともない。
この牢の支配者は飽くことなく少女を痛めつけ、耐えがたい苦痛を与え続けた。
「――痛い?」
マリーは愉悦に歪んだ口元で尋ねた。
まるで闇から這い出てきたかのように漆黒を纏った少女。
黒の長髪から覗き見える血のような赤い瞳が、じっと少女を見下ろしていた。
血に塗れた指先がドレスを滑る。
ひ、と悲鳴を上げる少女を楽しそうに見つめるマリー。
「怯えてるんだね。分かるよ、その気持ち」
まるで赤子を撫でるような優しい指先がドレスの隙間から入り込み、少女の肌に直接触れる。
腹部から始まり、脇腹を通って少女の胸部を撫で上げた。
そして指先が鎖骨へ到達すると――マリーの指先が皮膚を破って体内へ突き刺さった。
痛みに呻く少女の顔が本当の恐怖に歪んだのはこの後である。
マリーの指はそのまま肉を引き千切りながら、やがて少女の鎖骨を直接つかんだ。
そしてそのまま、力任せに鎖骨を砕き折った。
地下牢を震わせる大絶叫が響き渡る。
あまりの激痛に喉が裂けるほど泣き叫び、糸が切れた人形のように気絶した。
「ああダメだよ。もっと聞かせて」
気を失ったことで悲鳴が途絶えたことが気に入らないのか、マリーは少女から抉り取った鎖骨を投げ捨て、ビクビクと痙攣する少女に覆いかぶさった。
マリーは自身の唇を少し噛みきる。一筋の血が唇から顎をなぞって滑り落ちる。
その一滴が少女の口内に落とされる。
途端、電流が奔ったように少女の身体が跳ね上がる。
カッ、と双眸が見開き、覚醒した意識が再び激痛に晒される。
息も絶え絶えに喘ぐ少女の痛ましい姿を見ながら、マリーは満ち足りたような笑顔を浮かべた。
その笑みは限りなく安らかで、幸福に満ち足り、そして身の毛もよだつほど邪悪だった。
――殺してください。
少女は絶望に濁り切った瞳でそう懇願した。
こんなものは生き地獄でしかない。これ以上の苦痛にはもう耐えられない。
今の少女には死だけが救済となる。
少女は涙と吐瀉物と血に塗れながら叫び続ける。
殺してください。殺してください。殺してください。
「あぁ……あなた、とってもかわいいよ」
その悲痛な叫びを聞きながら、マリーはうっとりと頬を染めた。
歪に裂けた口元には狂喜の笑みが刻まれ、その隙間から――鋭い牙が顔をのぞかせた。
「――食べちゃいたいくらい」
その牙を、少女の首筋に突き立てた。
ずるずると血を啜る音と、未だ終わらない地獄の訪れに絶望する少女の悲鳴が、薄暗い地下牢に響き続けた。
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