第13話

 テレーゼの父だというユリウスに火を熾して貰い、食料を分けてもらって、フォルカーとマルレーネはようやく人心地がついた。

 落ち着いたところで、フォルカーはユリウスの事をまじまじと見る。最初はどこかで見た事がある気がしたが、よく見てみれば顔も雰囲気もそれほど似ていない。髪と目の色は同じだが、髪形も目付きも違うからやはり全く関係の無い人物に見える。

 ユリウスは穏やかな性格のようで、口元がずっと笑っている。また、子ども好きでもあるようで、小さくて見た目もやや幼いマルレーネの事をにこにこと見ている。

 それと、動物好きでもあるようだ。

「えぇっと……フォルカー君? 良かったら、ちょっと尻尾を撫でさせてもらっても良いかな?」

 特に問題は無いので許可すれば、嬉しそうに尻尾をモフモフと揉んでくる。今まで知らなかったのだが、尻尾を揉まれると結構くすぐったい。許可した手前やめろとは言えないが、早めに満足して欲しいフォルカーである。

「本当にテレーゼの親父さんか? 全然似てねぇな……」

 性格が。そう言うと、ユリウスは「あぁ」とおかしそうに笑った。

「あの子は顔も性格も、母親似だからね。家にいる時は、よく二人に揃って怒られたよ。……そう言えば、フォルカー君もよくテレーゼに怒られてるみたいだね?」

 尻尾を揉むのをやめ、「ごめんねぇ」と緩く笑った顔のまま言ってくる。悪いと思っていると言うよりは、怒られる仲間が増えて嬉しそうな顔だ。

「……ってかさ、本当に何でそんなに俺の事わかるんだよ? 会った事も無ぇのに俺の事がわかったり、俺がよくテレーゼに怒られてるって知ってたり!」

 疑問点をぶつけると、ユリウスは「うーん……」としばらく考えた。そして。

「実際に見てもらった方が面白いかな? フォルカー君、マルレーネちゃん。良かったら、これから僕の家に来ないかい?」

 ユリウスの家、という事は、テレーゼの実家だ。そしてたしか、テレーゼの実家は東の沃野だったと記憶している。

 東の沃野にはちょうど今から行くところだった、という事と、ついでに宿のあても無い事を伝えると、ユリウスはパッと嬉しそうな顔をした。

「なら、しばらくは僕のうちに泊まっていくと良いよ! 色々見せたいし、テレーゼが西の谷でちゃんとやってるか聞かせてもらいたいし! ……あ、テレーゼの事だから、生活習慣とかはうちにいた時と変わらずにしっかりしてると思うけど」

 そう言いながらユリウスは立ち上がり、フォルカーもそれに続いた。たき火の後始末をしっかりすると、二人揃って歩き出す。

 歩きながらフォルカーは問われるがままに西の谷や中央の街でのテレーゼの様子を話し、時にはフォルカー自身の事も話す。話している最中に、マルレーネが加わってくる事もあった。

 時には川沿いで立ち止まり、男二人で魚を獲る。道端に見付けた小さな花を、ユリウスが力を貸してマルレーネと摘む事もあった。

 何故だろう、とフォルカーは首を傾げる。ユリウスはいつも笑っていて、それでいてとても強そうには見えない。どう見ても、カミルに似たタイプで、かと言って何か特別な装備を持っているわけでもなく。そしてそもそも十三月に呼ばれた人間ではないわけで。

 十三月の狩人かその代行者に襲われたとして、頼りになるとはとても思えない。なのに、一緒にいると何故か頼もしさを覚える気がする。見たところ、マルレーネも同様のようだ。

 何故なのかわからないまま、時々不思議そうな表情を浮かべたりしながら、フォルカーは歩く。あと一日も歩けば、東の沃野に着く。

 氷響月が――一年が終わるまで、あと十五日。

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