第3話

 赤レンガの建物が立ち並び、露天商達が張りのある声で客を呼ぶ。

 中央の街の、賑やかな大通りを抜け、マルレーネを連れたフォルカーは市街地の中心から少し外れた場所にある、こげ茶色を基調とした建物の前に立った。どうやら店のようで、扉にはドアベル、扉の前には看板。看板には、「魔道具屋」とシンプルに書かれている。

 フォルカーは躊躇い無く扉を開けると、帳場で書類と睨み合っている男に声をかけた。

「よう、おやっさん。調子はどうだ?」

「おう、フォルカー。今日はどうした? また何か壊したのか?」

 魔道具屋の職人兼主人であるヴァルター=ホルツマンに開口一番そう言われ、フォルカーは苦笑する。

「いつまでもドジじゃねぇって。……なぁ、おやっさん。前にカミルがさ、何でも入る魔道具を持ってたよな? 鞄とか……ペンダントみてぇなのもあったっけ? あれ、欲しいんだけどさ、同じモンあるかな? あ、ペンダントじゃなくて、鞄の方。あったら、売ってもらえねぇ?」

 南の砂漠で倒したモンスターを売ったため、今なら懐はそれなりに温かい。欲しい物を買うなら今だろう。

 フォルカーの申し出に、ヴァルターは少しだけ顔を曇らせ、そして懐かしそうに笑った。

「在庫はあるし、売るのは構わねぇが……ありゃ何でも入る鞄じゃねぇぞ。見た目よりも多めに物が入って、入ってる物の重さを軽減してくれる鞄だ」

「え、そうなの?」

「発案者のカミルがあの通り非力だったからな。工具を持ち運ぶだけで疲れたりしねぇようにって考え出したのが、あの鞄なんだよ」

 しんみりとした声に、フォルカーは俯いた。そんな彼に、ヴァルターは「それに……」と言葉を足す。今度は、どこか意地悪気な笑みを浮かべて。

「言っとくが、魔道具はモンスターの体液が付着したりすると、おかしくなったりするもんだ。狩ったモンスターを運ぶのはご法度だが、それでも欲しいか?」

「……今回は見送りで、検討だけしておくよ」

 まさに狩ったモンスターを運ぶ気満々だったフォルカーは肩を落としてそう言った。その様子に、ヴァルターは豪快に爆笑している。

「まぁ、なんだ。今日もカミルの顔を見てってくれるんだろ? 今ならテレーゼちゃんも来てる。久々に、三人でゆっくりしていきな」

 そう言って、ヴァルターは奥の部屋に続く扉を指差した。フォルカーは神妙な顔で頷くと、黙って奥の部屋へと歩き出す。今まで黙って二人のやり取りを見ていたマルレーネが、不思議そうな顔をしてそっと問いかけた。

「フォルカー兄、カミルってたしか……十三月の狩人と戦った時も口にしてましたよね? これでカミル達を助けられる、って。けど、奥にいるって……どういう事なんですか? カミルって、どういう人なんです?」

「ダチだよ」

 ぶっきらぼうに短く呟き、フォルカーは扉のノブに手をかける。そして、補足するように暗い声で言った。

「俺達のために起きなくなっちまった、俺達の大事なダチだ」

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