妖精の木
トマトも柄
第1話 妖精の木
あるところに一人の木こりがいた。
その男は森の木を切り取って、切った木で商売をしていたのだ。
男はこの仕事を誇りに思っていた。
みんなの生活のために仕事をしているととてもいい気分になっていた。
ある日男が夜眠ると、不思議な声が聞こえて来る。
「木を切らないで。 お願いだから木を切らないで」
男は起き上がり、周りを見てみた。
しかし、人らしき気配はなかった。
男は気のせいかと思い、再び横になった。
そのまま寝ていった。
次の日、男は仕事に向かった。
男が森に着き、木を切ろうとした時、
「お願い。 切らないで」
声が聞こえる。
しかし、周りには誰もいない。
いるとすれば、その木こりの男だけだった。
気のせいかと思い、再び木を切ろうとする。
「やめて。 切らないで」
その声は必死に男の行動を止めるかのように呼びかけて来る。
男は木を切るのをやめて、聞こえる声に答える。
「どうしてだめなのだ?」
「木を切ることはここにいる森が悲しむからです」
「なら、俺はどうすればいい」
「木を切ることをやめてくれればいいのです」
「それはダメだ。 俺の生活が出来なくなる。 木を切ることを止めることはできない」
そう答えると、声は悩んだような声を出した。
「どうしましょう。 木を切られると、私たちが困り、木を切らないとあなたが困る。 どうしましょう」
声は結局答えを出せずにいた。
「なら、答えが出るまで木を切らしてくれ。 俺の仕事はこれで生活しているんだ。 そうしないと生活できないのだよ」
男は声に投げかけた。
すると、声は慌てて男に答える。
「明日まで待って下さい。 明日は木を切ってもいいので、今日はお帰り下さい」
そう言われて男は渋々帰った。
そして、次の日になり男は森へ向かった。
男は木を切るために森へ向かった。
男は森に着き大声を出した。
「おーい。 聞こえるか? 木を切りにきたぞ」
「はい。 お待ちしておりました。 私の言う木を切って下さい」
男は声の指示に従い、言われた木の前に向かう。
その木は周りの木とは何も変わらない木だった。
「この木は周りとどう違うのだ?」
「切れば分かります」
男は声の言う通りに木を切った。
木を切ると切れ端から不思議な光が放っていた。
その光から木がまた生えてきたのだ。
男は驚いて、目が点になる。
「木が……生えた!」
「そうです。 この木は何回切っても生えて来るんです。 あなたの為に用意しました。 これなら大丈夫ですよ」
「そうか……ありがとう」
男は声に礼を言い、木を切った。
そして、木を持って帰った。
その木は何故か暖かい感じで、とても優しい感じがしたのだ。
男はその木で生活をした。
毎日木を切って、それで生活をしていた。
しばらく生活が続き、男はふと思った。
声は森のために木を用意してくれたが、俺は何もしていない。
男は考えた。
しかし、考えがまとまらなかった。
そして、男は森に向かい、大声を出した。
「聞こえるか〜?」
「はい。 聞こえます」
声の返事が返ってくる。
「俺はこの森にお礼がしたい。 この生えて来る木のお陰で生活が出来ているのだ。 何かして欲しいことはないか?」
「そうですね。 では、屋根を作っていただけませんか。 雨が降った時に動物達が隠れる事ができるような立派な屋根でお願いします」
「分かった」
男は声のお願いに答えて、屋根を作り始めた。
最初は苦戦した。
屋根を作ろうにも森はとても広い。
数カ所の屋根を作るにも大変だ。
そこで、男は森に自分の家を作った。
森に迷惑がかからないように木を切らず、不思議な木だけで家を作った。
男はその家に住み、屋根を作り始めたのだ。
毎日、毎日、森に迷惑がかからないように気をつけながら屋根を作っていった。
そして、長い年月をかけて森の数カ所に屋根を作ることに成功した。
男は長い年月がたち、おじいさんになっていた。
おじいさんは声を出す。
「屋根を作ったぞ。 立派な屋根が出来た! どうだ綺麗だろう?」
おじいさんの声に返ってきた答えは「ありがとう」というお礼の言葉だった。
「とても素敵な屋根をありがとうございます。 これで動物達も雨を凌ぐことができます」
「それと、一つお願いがあるのだが?」
「はい。 何でしょうか?」
「直接会いたい。 会って、君が何なのかを知りたいんだ」
おじいさんの声に返ってきたのは笑い声だった。
「毎日会っているではありませんか。 何を言っているんですか」
「ど! どういうことじゃ!?」
おじいさんは驚いた。
毎日会っていることに気付かなかったからである。
「私はあなたが毎日切っている木ですよ。 私はあなたの働きを毎日見ていました。 あなたは私の言うことを守ってくれました。 ありがとうございます」
「そうじゃったのか」
「これからも見続けていきますよ」
「では、これからもよろしく頼むよ」
おじいさんはそれからも生活のために木を切っていった。
ただ、木を切っていくのは必ず決まった木だけだった。
おじいさんは木を切り終えて、一言だけ言った。
「まるで妖精じゃな」
おじいさんは森に感謝しながら帰っていった。
妖精の木 トマトも柄 @lazily
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