一人は二人へ

雛芥子 梔

第零話

そうして、きつとぼくは泣いていた。

寂しく独りで。くらい部屋の中で

でも、それは絶望じゃなかった

希望が欲しかったから。絶望を涙で流して

生きる希望の灯火が――生への執着と他者への羨望

だから、ぼくは決意した。この昏い社会でも

生きてやろうと。強く、誰よりもつよく。

それがぼくがきめたこと。

ぼくが一人で決心したこと


もう、あの頃の俺はいない。ニートで社会の塵

なにもなくさまよった部屋も、彼の日々も

おそらく、完全なる別離。

解離したんだ、過去のぼくと

そうだ、今は違う。準大手の役職クラスで。

会社は右肩上がりの順風満帆

素直で気配りの利く女性と一緒で。

これ以上ないくらい可愛い娘と息子。

俺には、守りたい家族ができた。

彼女らのためなら命を賭すことさえ辞さない

いや、一生守りぬく――そう誓った


あのとき。旅行に行かなければ。

高速で左車線でおとなしく走っていれば、きっと…………

会社の一大プロジェクトの成功をおさめ、長期休暇を貰い。

たまにはと家族旅行で海へと二泊三日の予定を立てた

しかし

行きの高速で、大型トラックの居眠り運転により衝突事故

四人は即死だった

運転手の父親もろとも、この世から去った


想う。家族の幸せを

けれど、死んでしまって意識だけで。

もし輪廻転生があるのなら、魂があるなら

もういちど家族と会いたい

娘と息子の太陽のような笑顔をみたい

愛するパートナーの屈託のない笑顔をもう一度……


あのぼくの決心は無駄ではないんだ

ぼくの物語は終わってしまったけど。

きつとまた、愛する女性と会える―――


――――――


僕は4ヶ月前に13歳になった。

幼馴染の女子と今度、デートに行く。

初デートだけど、浮かれてもいられない

彼女にカッコいいところを見せなくちゃ。

なんだか彼女とは深いところで繋がってる気がするし

まだ、そういうことはしたことないけど。

彼女の幸せな顔が、僕は大好きだから




今週末の日曜は幼馴染の子とデート

保育所のころから一緒で、何かと話が合った

なんだかそのころからかわいく思えた

それに…最初もそうだったけど、彼とはなんとなく

初めて会った気がしない。よくわかんないけど

前に会ってたような……

4ヶ月前に告白されてから、なかなか進展しなかったけど…

日曜は気合い入れてデートに行こっ

今から楽しみ!

二人ならきっと、上手くいけると思う

なんとなく、女子のカンかな?

素敵な日になるといいな―――




今は、二人は四人で仲良く暮らしている。

そうして、世界はほんの少し色づいた。

桜が舞い落ちてゆく、季節になった。

彼女―――僕の妻の誕生月で

子供たちの誕生月でもある。

想う、家族の幸せを。そして、

世界が、きれいになりますように。

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