10-2 死際
外より、落ち葉を踏みつける音が近づく。一人、戸の前で止まった。……たて付けの悪い木戸は、強く押さないと開かない。
小笠原は、万次を殺さんと現れた。
万次は床に就いたまま顔を向け、笑みを浮かべて出迎えた。小笠原は近くに寄り、布団の横で座す。
無言のまま、時は過ぎる。
……小窓からは、秋の寒い風が入る。万次のその弱った体にはきつい。いくら布団で覆っていても、しみるのだ。
小笠原は一切表情を変えず、座り続ける。
そんな彼に、万次は語りかけた。
「殺しに来たのか。」
頷きもしない。
「やれ。」
万次はそういうと、布団を少しだけ足の方へずらした。首元を隠す物は、何もない。
小笠原は刀を抜く。静かに、そしてゆっくりと、輝く部分を首に近づける。そして刀と首は接し、動きを止める。
ひんやりとした感触。氷の冷たさのようだ。少しだけ皮膚と刃がこすれ、赤い血が隙間より漏れだす。
万次はなおさら笑顔を作って、小笠原に言った。
「やっぱり、死ぬのは痛いな。」
小笠原の、仏頂面は変わらない。万次は……最後の語りを始めた。
“俺の周りに集まった下衆ども。やつらに夢を見させてやることができたかな”
“安心しろ。仲間にも言い含めてある。俺が死んでも……為信に従い続けろってな”
片方の手で、早く殺せと急かす。万次は目を瞑り、今にも逝かんとする。
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