第231話 おもてなすぃ。と洗礼

はーい、私は戦隊メンバーきららホワイトこと小岩井きらら。


2014年1月初旬、世界の車窓から。今回は…


ドイツICE(日本でいう新幹線)高速鉄道フランクフルト・アム・マイン(ブランデンブルク州のフランクフルトと区別するため)からチューリヒまでをお送りしまっす!



旅の仲間の勝沼さん(勝沼酒造のボンボン)と野上先生(腕はいいけど性格がアレな医師)


は出張で3、4度はヨーロッパ来たことあると言ってたけれどもICEは初だったのでフランクフルト中央駅のチョーでっけえビニールハウスみたいなガラス張りのドーム見ておじさん達もテンションダダ上がりでした、けれど…


ホームに駅員さんが居なかったり


ホームに入ってきた列車の面構えが皆白地に赤ラインでどれに乗ればいいかわかんなかったりドイツ語の電光掲示板見たガイドのガブちゃん(正体は旅人の天使ガブリエルだ)が、

「列車が15分遅れてましがこれは早い方でし」とのたまわったりで、


軽くカルチャーショック受けていたところを


「ホームのキオスク、

道案内してくれる駅員、

路線と時刻まで教えてくれる案内所がある国は…


世界広しといえど日本だけでしからねっ!


ここは己一人を頼りに生きるEU、さあ乗った乗ったっ!」


とガブちゃんが17分後に来た列車に私たちの背中を押して乗せてくれなかったらどーなっていたことか、はぁー。


でも、野上先生のとおーい親戚にあたるスイス銀行頭取のゲオルグおじさんが一等客席チケットを取ってくれたお陰で荷物置き場の側の窓際対面テーブル付き、しかも座り心地の良い座席でん〜、快適。


列車が出発し、車窓の風景が高層ビルの立ち並ぶ都会からうっすらと雪が積もった農村地帯へと移った時、


「うわぁ〜まるで十勝の牧場に里帰りしたみてぇだべ!」


と思わず叫んでしまいました〜


相席の勝沼さんと野上先生は


「本当だ、新幹線で甲府盆地に入ったような既視感があるね」

「うわっ、本州抜けて九州の田園地帯に入ったような『あ、福岡入りしたな』感〜」


とヨーロッパのいい感じの田舎に来た感激を各々おのおのの表現で口にしてしまったので


「むあったく、ヨーロッパまだ来て故郷に戻った感だだ漏れとは出国五日目にして既にホームシックでしか?」


と胸中を当てられてぎくり!としちゃいました〜。てへっ。以上、小岩井きららでした〜。


「これは観光ではなく出張だ。と自分に言い聞かせてるけれど…たとえ行先がどこだろうと大抵の旅は4泊5日目でだれるものです」


と悟が正直な胸の内を明かし、


「確かにフリッツの母ちゃんが振る舞ってくれたドイツ飯は美味かった…けれど俺の体が欲しているんだ。


米のメシと味噌汁と焼き魚をくれ、と。


なあ、チューリヒ着いたら和食の店連れて行ってくれね?」


と言う聡介を「それはチューリヒでやるべき事をやってからでし」と硬い声で跳ねつけた。


そうだった、自分たちが倒す敵、蔡玄淵を最もよく知る人物への面会を果たし、相手から情報を引き出してからだったな…観光気分になっていた自分達が恥ずかしい。と反省した3人であったが、


「それよりもスイスに着いてやるべき事終えたら夕食はチーズフォンデュ爆食いでーしっ!」


と興奮しながらラファエル座席から立ち上がり予約したレストランのチラシを掲げたので、


「結局あんたが一番観光モードじゃないかい!」


とキレ気味のツッコミを入れた。



「わーいわーい、きららねたーん!ゆきげしきがきれいだにゃー」


「ルウェネ、ルウェネ(んだんだ)」

「ピリカ、ピリカ(綺麗だね〜)」


と他の乗客に見えないのをいいことにこ白い古代服の上にウルトラライトダウンを羽織り、窓辺にかぶりつくのは見た目4、5才のちび女神、ひこ。きららの守護神を自認する彼女が付いてくるのは折り込み済みだったが…


「ねえきららちゃん」


「はい?野上先生」


「この列車に乗ってから旅の仲間が二人というか二体増えたみたいだけど、その独特な棘渦巻模様の鉢巻と着物からして彼らはアイヌっ小人?」


「はい、私の小さい頃からのお友達のコロロポックル(小人)さん達で

(第12話、これにて飲み会お開きを参照)


スイスに行くって話したら『思いっ切り冷やっこいとこ行きたい!』ってせがむんで連れて来ちゃいました!ほら、二人とも自己紹介」


ひこの両肩に乗って窓にへばりついていたアイヌ装束の小人二体は促されてそのまま背面宙返りで飛び上がってからきららの膝上に正座で着地し、居住まいを正して自己紹介をした。


「おらはアプト。アイヌ語で嵐、って意味だ」


「おらはアプトの双子の妹、ノト。なぎって意味だ。


作中数少ない妹キャラ、みゆきさんに男が出来た悟のメンタルケアのための代打妹キャラだべ」


にぱ。にぱ。


とマスコットキャラのような同じ顔を並べて笑う双子の小人を前に悟はノトのパワーワード「妹に男が出来た」で心理的ダメージを受け、シートの上で脱力してしまった。


「初対面で相手の傷口をえぐるなよ、ノトさん…ひこちゃんと同じく君たち普通の人には見えないんだな?」


「はーい」

とひこと一緒に両手を上げるアプトとノトに、


こいつら今まで会った小人たちよりも頭ひとつ抜けてクセ強ぇぞ!


と思いながらも列車の旅をヨーロッパの農村風景眺めながら頭を休めよう、と聡介は決め込んだ。


2時間後、チューリヒ中央駅から出てきた一行を2013年最新式の黒のボルボV60から降りて出迎えたのは見た目20代後半くらいの艶のある黒目が印象的な甘い顔立ちをした褐色の肌の青年だった。


「ヘル(ドイツ語でミスターの意)、ラファエル・ボッチェリーニご一行の皆様、ようこそスイスへ。


私はアレクシス。ここからは頭取の私邸まで責任を持って送迎致しますのでどうぞ車内でお寛ぎ下さい」


と滑らかな日本語でラファエルとがっちり握手した彼の180センチ越えの長身と寸分の隙なく着こなしたチャコールグレイのスーツ越しでも解る鍛え上げられた体つきは一見、要人のボディガードを思わせた。が、


トランクに荷物を積んだ一行が車に乗り込み、シートベルトを装着したのを確認した彼が運転し始めて5分後に…


「私はバウムガルテン銀行顧問の国際弁護士、アレクシス・ケイス・シュナイダー。頭取のご親戚であるドクトル野上とご友人がたをお送り出来るのは光栄です」


と上機嫌でハンドルを握りながらアレクシスは接待相手の想像の斜め上の自己紹介をした。


「こ、国際弁護士ぃ⁉︎その若さでスイス三大銀行バウムガルデンの顧問の職に就くのは真のエリートじゃないか!」


と聡介がバックミラー越しに驚くのを見ながら、


「我が家は3代前からこの国に移住したエチオピア系です。


そうですね、父が作家として成功していたお陰で息子の私はオックスフォードで法律を学び弁護士資格まで得るチャンスを与えられた。教育環境には非常に恵まれていたと思います」


運転しながら照れ笑いするアレクシスに「お父さんが作家…ってもしかしてあなた、SF映画『オプティマス』の原作者のベストセラー作家ケイス・デスタの息子さん?」


と悟が言い当てたので「はい、そうです。僕が子供の時に父がブッカー賞受賞して注目されてからもう家族ともども大変で…」とアレクシスは苦笑するも、


父の名を受け継ぐエチオピア流の自分のミドルネーム、ケイスで父の素性を当てるだなんて鋭い人だな。


と悟の洞察力に内心舌を巻いた。


さてトラム(市電)行き交うチューリヒ市街地から車で40分弱のところにある高級住宅街の一件の邸宅前に車を停めたアレクシスはスーツの内ポケットから携帯を取り出し、


「シュナイダーです。ただいま頭取のご親族をお連れしました」


と一言報告すると重厚な木製の門扉が自動で左右に開き、中に入った一行が玄関前で車を降りると玄関前で待っていた執事と思しき初老の白人男性がアレクシスから鍵を預かり、


「私は執事のアウグスティン。この別荘での客人のお世話を預かる者です」とアレクシスの通訳を介して挨拶した。


すぐに執事の両脇のスーツ姿の部下たちが「お荷物をお預かりします」と車のトランクから海外旅行用スーツケース四台を取り出し、客間に案内してくれる。


めいめいの部屋の鍵を渡し「短い間ですがお寛ぎ下さい」と言ってすぐ自分の持ち場へと去るきびきびとした働きっぷりはまるで高級ホテルのクラークようであった。


「こ、これが世界の富豪が別荘建てるスイスの金をかけたおもてなすぃ。か⁉︎」


と聡介ときららが感激しているところへ「彼らにとっては報酬に見合ったプロの仕事です。遠慮せずに堂々と振る舞っていればいいんですよ」


と海外でプロの接待を受け慣れている悟がアレクシスの後について動じることなく歩いて行く背中を、


彼こそ世界の何処に行っても堂々と振る舞える誇り高い人だ。


と聡介ときららは眩しい思いで見つめた…


廊下奥のリビングに通された一行はドアを開けてすぐの所で待ち構えていたこの邸の主、ゲオルグがモスグリーンの編み込みの入ったセーターにワイドパンツとラフな格好で


「ようこそ、野上聡介くん。勝沼悟さん。小岩井きららさん。ここまでご足労下さり感謝しています」


と聡介と同じ灰色の瞳を好奇心で輝かせて覚えたての日本語で歓迎の言葉を述べ、一人一人に握手をしてくれた。


「皆さん長旅お疲れ様。ささやかながら食事を用意させて頂きました」


とリビング続きのアイランドキッチンのテーブルを並び湯気を立てているのは…


炊き立ての白ご飯に鮭の塩焼き、大根の味噌汁、きゅうりと人参のお新香という日本を離れて五日目の一行の体が欲していたザ・日本の定食であり、ゲオルグの心遣いに感謝しつつも三人は「いただきます」と手を合わせた。


まず箸を持って味噌汁を啜り、焼き鮭とご飯にかぶり付き、ぱりぱりと音を立ててお新香を齧りながら故国の味に夢中になる…


ゲオルグの専属料理人で栄養士でもある日本人板前、平井さん手製のコースを食後のデザートのあんみつまで堪能した三人は、


「ご馳走様」と手を合わせ、出された静岡掛川産緑茶まで啜ってから初めて人心地着いたのである。


「なるほどー、日本離れて何日かぶりに自国のおもてなしを受けたら心ほぐれるわ。こうやって訪日外国人客が接待で蕩けてしまうんだな」


「今や、O・MO・TE・NA・SWI、おもてなすぃ。は世界の流行語ですからねー」


「プレゼンしてたアナウンサー岩槻アレクサンデルも各局引っ張りだこ。


あの人はプロスポーツ選手と結婚以上の野望を持っているね…」


日本茶のカフェインで頭をすっきりさせた聡介は「美味しい和食をご馳走して下さりありがとう御座います。頭取」


と頭を下げて懇ろに礼を述べるも


「他人行儀はよしてくれたまえ、君と私は血の繋がりがあるからゲオルグ叔父さんと呼んでくれたまえ」


と気さくな笑顔で聡介の肩に手を置いた。


「では、ゲオルグ叔父さん。…『マスター』に近しい人物はこの邸にいるのですね?」


「そうだよ、これはトップシークレットだから私が部屋まで案内しよう」


ゲオルグと聡介の小声の英語の会話を聞いた悟はきららに向かって頷いて見せ、緊張した面持ちで椅子から立ち上がった。



その人物が居るという部屋の扉を赤い絨毯張りの廊下の奥に確認するまで聡介たちはゲオルグ自身の声紋認証によるセキュリティが掛かった邸内の扉を3度通り、途中何度か廊下を曲がったので自分たちがこの邸の何処にいるのかさえ解らない。


「ここからは君たちだけで行きなさい」


と言ってゲオルグは目測で10メートルほど向こうの重そうな樫のドアを指差して自分は最後のセキュリティドアを抜けてすぐの、廊下の壁際にある革張りのスツールに腰を下ろす。


聡介、悟、きららはゲオルグに一礼し、ドアに向けて左右の壁に花と中世の建物が書かれた風景画が2枚ずつ掛けられた歩き出した。


扉まであと5メートルという処で


「ちょっと待て」と言って聡介が立ち止まり、


「この廊下に俺たち以外の誰かがいる」と目に見えない「誰か」の気配を皮膚で感じ取り、透明に近い灰色の瞳に思いっ切り警戒を滲ませた。


そんな、ミサンガの機能で目をくらませる何者かがいるなんて!そんな相手初めてだ。


敵か?味方か?


悟ときららはこちらを振り返った聡介の眼差しで「二人はここで止まって」という意図を読み取り、その場で立ち止まった。


目に見えないのに気配だけ感じるだなんて透明人間か某SFアニメの光学迷彩を纏っている奴だけだ。


考えるな、感じろ。とこういう時じいちゃんは言うだろう。闇夜や相手が隠れている場合、祖父鉄太郎がしてきた事、それは己の目を閉ざして顔の皮膚に感じる空気の流れや幽かな匂いで気配の強い1箇所を感知し、そこへ飛び込む。


それだけだ!


ふふ、面白いですね…野上聡介。姿を隠した自分に気付き、まさか目を閉じてこっちの居場所を探ろうとする。


でも、我の高速移動にはついてこれまい!


と聡介と扉のちょうど中間に居た相手は目を閉じたままこちらに突進してくる彼の動きを予測し、


次の動作は素早く決着を着ける為に右手で空手の正拳突き。しかし、自分はその間に相手の左背後に周り、後頸部に一打を喰らわせる…


と聡介の思考まで読んだ相手がちょうど左側の懐に入った刹那…


「ばーか」


という声と共にフェイントで何かの粉末を喰らい、彼の鼻腔から目の粘膜まで激烈な痛みが走った。先程の食事中にテーブルからくすねた粉末わさびの小瓶を聡介が相手にぶっ掛けたのだ。


「ひ、ひああああっ!」


と叫びながら顔を押さえる薄緑の粉を被った相手は痛みのあまり焦茶色と白のストライプ柄の長髪を垂らして涙と鼻水を垂らしながら透明化を解いてしまった。


「俺を試そうだなんて10年速い」


と右手に小瓶を持ったままの聡介が見下ろす相手は…


「ア、アレクシス?」


「その髪型と透明化出来る力って…あなた、観音族だったの⁉︎」


つい小一時間前まで会っていた感じのいい青年がまさか観音族で自分たちの隙を伺っていただなんて…


ストライプの長髪に紅い複眼、スーツから覗く皮膚は茶色の体毛に覆われたアレクシスは、


「ふ、ふぁい…」


と涙目で両手を上げて降参した後、盛大なくしゃみを飛ばした。


戦闘型観音族アレクシスの人生初の敗北の要因。それは日本のミラクルスパイス、WASABIのぶっ掛けという強烈な洗礼だった。















































































































































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