不幸地雷を踏んじゃった男

ちびまるフォイ

不幸地雷は日常のすぐそばに

「今日はちょっと違う道を通ろうかな」


会社へ向かう前に、いつもと違う道を通ってみた。

足の裏から「カチッ」という不気味な音が聞こえる。


「な、なんだ……?」


犬の糞でも踏んだように足を動かさずにおそるおそる見てみると、

足の裏でなにやら地雷らしいものを踏んでいた。


「な、なんでこんなものがこんなところに!?」


すでに地雷を踏んで作動している。

この足をどかせば即ドカンだ。


警察に連絡して地雷の見た目を詳しく伝える。


『ああ、それは不幸地雷ですね。じゃ、こっちも忙しいんで』


「あ、ちょっと!!」


不幸地雷という情報だけ伝えて電話が切れた。電話の向こうで麻雀の音が聞こえた。

おのれ税金泥棒……。


足を固定させたまま、通り過ぎる人に必死に声をかける。


「だれか、誰か助けてください!」


「ちょっと、そこの人! 助けてくれませんか!」


声をかけられた人は"大変そうだな"という顔をするだけで足を止めることはない。

これが都会なのか。人間の冷血さに地雷以上のおそろしさを感じる。


そのとき。



「……大丈夫ですか?」



通勤の会社員だろうか。女性が目の前に立っていた。天使か。


「実は不幸地雷を踏んでしまっていて、ここから動けないんです」


「不幸地雷……! 聞いたことあります。

 地雷が作動すると、死ぬまで続く不幸がふりかかるとか」


「え!? そんなに!?」


踏んでる張本人である俺がいちばんびっくりした。


「足の代わりになる大きな石でも持ってきますね!」


女性はしばらくして、つけもの石サイズの石を持ってきた。

足を載せていた場所に石をそっと乗せてみたが……。


「だ、ダメです。石と足を切り替えるわずかな瞬間に地雷から足を外してしまいます」


「じゃあ、俺が手で押さえるんで、手と石をすり替えましょう」


「……手だと重さが足りなくて、やっぱり作動しちゃいますね」


二人でこれはどうか、それならどうだと、思いつく限りの作戦を試した。

けれど、どうしてもこの状況から逃れる方法はなかった。


「そうだ、この地雷が埋まっているコンクリートを掘って……」


「もういいです」

「えっ」


「もう十分ですよ、ありがとうございます」


「そんな! 諦めるんですか!」


「あなたにここまでしてもらって、本当に俺は幸せ者です。

 でも、あなたをいつまでもこの地雷に付き合わせて不幸にさせたくない」


「でも……」


「いいんです、どうせ不幸になるのは俺ひとりですから」


足が吹っ飛ぶのか、一生就職できなくなるのか。

ありとあらゆる不幸を思い描いてぐっと腹の奥底で覚悟を決める。


「諦めないでください! 不幸地雷は被害者をずっと後悔させるほどの不幸が続くんですよ!」


「……ありがとう」


必死にすがる女性を突き放して地雷の起爆範囲から遠ざける。

そっと足を離した。




カチッ。



2回目の作動音とともに不幸地雷は爆発した。



「……あれ?」



確かに不幸地雷は爆発したが、別に何も起きなかった。

五体満足で、会社に連絡すると遅刻こそ怒られたがその程度。


想像していたあらゆる不幸はなにひとつ怒らなかった。


「きっと不発だったんですよ! 本当によかった!」


「そ、そうか……よかった……」


「私、あなたが不幸になると思うと……本当につらくて……」


女性は感極まって涙を流した。

その顔を見て俺は少しのためらいもなく言葉にしていた。



 ・

 ・

 ・


それから10年後。


「あんた、いつまで寝てんの。休日くらい家事変わんな」


「休日って……平日もやってるじゃないか……」


「はぁ? あんたに女の大変さがわかるの!?」


あの時口にした言葉をこれほど後悔したことはない。

なんで「結婚してください」などと血迷ったのか。


いまでは死ぬまで離婚できない恐怖の地獄めぐりが家庭で行われている。



「あぁ……本当に不幸だ……」



「なんか言った!?」


「ひぃぃぃ!!」


不幸地雷が呼び込んで「死ぬまで続く不幸」は、

今日も過程で俺の精神をがりがりとむしばんでいくのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不幸地雷を踏んじゃった男 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ