しんじつ

朝食の席で、婦長さんは一つの提案をした。それは、敵国から来たブレインとフォルを監視するという名目で医院に置く、というものだった。

「もちろん、悪いようにはしないわ。匿っていることが本国に知れたらまずいから、建前だけね」ブレインは頷いた。もとより国に帰るつもりはない、と。フォルもそれに賛同した。

アメリは首を捻った。戦争があったことも、無人兵器が負の遺産として残っていることもアメリは知らない。

婦長さんは話を切り上げ、町の片付けを手伝うことを二人に求めた。

二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。



「二人は外の国で何をしていたの?」マントを風になびかせて、アメリは落ちていたボルトを袋に入れた。

「諜報に戦闘、武器の輸送もやったわね」ブレインの答えはひどく単純だった。「兵士なの。わたしとすーくんは」

「国が戦争やってたおかげで思えばいろんなことやったな」そうね、とブレインが口に指をあてた。

「農業用のマシンが足りないって言って、私たち、畑に連れてかれたわよね」ああ、あれは酷かった、とフォルが調子を合わせる。アメリはぽかんとした。

「ここの土地、外では『最終処分地』って呼ばれてたの」それは地の果てにあり、そこへ行ったものはどんなものでも決して帰っては来ないのだという。いつか聞いた楽園の話みたいだ、とアメリは思った。

「外じゃ戦時中に作った兵器の処分に困って、それを国同士で押し付け始めた」大陸の端にある一つの町が見つかってから、それは収束していった。「ここへ持ってくれば兵器はもう国とは関わりがなくなる。世界中の国が一様に不法投棄を始めたってわけだ」「理由はわからないけど、手に余る兵器を捨てられる場所ができた、ってね」

「そうか……でも、私にはよくわからない、かな」姉と、町と、自分のことが世界の全てだったアメリには、いまいち共感しがたい話ではあった。

「それでいいのよ。外はどこも大変よ。資材がないから壊れたものを直せないし、新しく作ることもままならない。それに影響を受けて食糧の生産だってまともにできてないわ。さっきの畑の話だって、戦時中に農業用の機械を潰さなきゃよかっただけの話なのよ」特に足りないのが鉄ね、掘り起こそうにも人も物も足りてない、とブレインは金属隗と向き合った。ここではちゃんとした飯が出るからありがたい、とフォルが呟いた。

「そうね、外じゃ安価な合成品ばかりだものね」ブレインは三歩離れるとツインテールを翻し金属隗を蹴った。部連はひしゃげて半分の大きさになったそれをフォルの引いてきた台車に乗せた。

「とりあえず置いてこようか、台車にはもう乗らないし」鉄くずを拾うと、アメリは倉庫に向かって歩き出した。ブレインはフォルの肩に乗り、それに続いた。

「この辺に固めておけば後のことは婦長さんがやってくれるから」アメリは袋の中身をバケツの中に空けた。ジャラジャラとこぼれる薬莢やボルト、取れたリベットなどがブリキに当たってガラガラと音を立てる。

フォルもアメリに倣い、台車の中身をコンクリートの床に置いた。

「この倉庫もう一杯だけど大丈夫かしら」ブレインがフォルの肩の上からアメリを見る。

「そうはいってもいつもこんな感じなんだ。たまに回収されるらしくて、その時はこの半分くらいの量になる」ブレインは何事かを呟き、フォルが首を捻った。スカートから覗く足が無機質に光を反射した。



『あの鉄もしかして輸出してる?』

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