サイバネティクス保有者
暖かい、誰かの腕に抱かれているみたいだ、とブレインは考えた。体が軋み、ザリザリしたノイズが耳に届く。ブレインは自分の足と耳について考えた。また前と同じように走ることはできるだろうか。
「……?」意識が戻るとともに違和感に気づく。膝から下にはちゃんと感覚がある。痒みも痛みもない。それに、やけに明るい。ブレインの目にぼんやりと白い天井が映った。窓の外は暗い。雨がふっているようだ。ブレインは目を見開き、周りに目を走らせた。
「目が覚めた?」白黒ウサギが壁にもたれて座っていた。「ここは病院。私はアメリ。昨日は巻き込んでしまってすまなかった。悪いけどちゃんとした痛み止めの在庫がもうないんだ」視線を向けるだけで白黒は動かない。よく見ると腕に点滴チューブがみえる。
「ここに、このあたりに住んでいるの?」少し驚いたような顔でウサギは答えた。「そう。そうだよ。この医院で暮らしてる。あなたは、外から?」損傷の少なかった建物のことをブレインは思い出した。ブレインは頷き、手をついて起き上がる。アメリはぎょっとした。
「痛くないの?」素っ頓狂な声を出し、アメリは呻いた。傷が痛むらしい。
「痛いわよ。私たちは北から来たの……ねえ……フォル、知らない?」ちゃんとしたベッドで寝たことと、フォルのことをすーくんと呼ばなかったことの、どちらがより長く縁のなかったことかを、ブレインは考えていた。
「ほかの部屋で寝ているよ……ねえ、動いて平気なの?」アメリは振り向き、掠れた声で言った。ブレインはアメリに近づいた。
「平気よ。よくあることなの」ブレインとアメリの目が合う。アメリの手が小さく震えているのが見えた。手を差し伸べ、ブレインはアメリを立ちあがらせた。ブレインの小さな体では引っ張り上げることができず、アメリは壁伝いに立ち上がった。
「フォルが心配なの。彼に会わせてくれるかしら」アメリは頷き、ゆっくりと廊下を歩いて行った。
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