イン・ザ・カプシュール

佳原雪

1:アメリとリカ

カップケーキ

机の上には小さなカップケーキが無造作に積んである。

じっと見つめるアメリはそのうちの一つをつまみ、口へ放り込んだ。白と黒が入り混じったショートヘア、長い兎の耳にピアスが光る。

「美味しい?」むぐむぐと無表情で咀嚼するアメリは声をかけたリカに無言で首を振った。決して旨いものではない、そもそも食べるためのものでもないのだ。アメリは黒白メッシュの髪を揺らし、ちらりとリカのほうへ目をやった。

「調子は、どう」指先でカップがころころと回る。アメリは変わらず無表情だ。頬杖をつき、気怠いまなざしは一向に減らないカップケーキを追っている。

「悪くないわ。そう、悪くはないの」リカは黒い強化繊維のジャンパースカートのすそを払う。「隣、いい?」

アメリはもういちど顔を上げ、今度はしっかりとリカを見た。悲しそうな顔の上で唇が薄く開く。「いいよ」

リカはこくりと頷くとアメリの隣に少しだけ間を開けて座った。アメリはつまんだカップケーキを鼻先まで持ち上げた後、少し考えるように見つめてからもとのように机に転がした。

「その髪は染めてるの?」リカは自分の黒い髪を指にくるくると絡ませて、見比べるようにして聞いた。「とってもきれい」リカの頬がほんのりと色付く。

「これは」言いよどむアメリの目には恐れと戸惑いの色が浮かぶ。「その、事故の後遺症なんだ」リカは気まずそうに目を伏せた。

「変なこと聞いたね、ごめんね」アメリは頭を振る。

「あ、いや、違う。そうじゃない」黒白メッシュのうさぎは曖昧に笑った。「きれいって言われたのは初めてなんだ」アメリが髪に手をやると、ピアスの空いた耳とリカに褒められたその髪が揺れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る