第21話 混乱

気付いたらソーマはいなくなっていた。

どれくらい時間が経ったのかも分からず、そのことにまた呆けてしまう。


お父様……ぼんやりとしか思い出せない。

いつから会ってないのかな。

お父様は、まだ私のお父様なのかしら。


どうしてお父様がいることを忘れてたのだろう。そして、どうして会いに来てくれないのか。


寂しいとは思わなかった。

ただゆらゆらと、とても曖昧なお父様を思い浮かべる。




「どうしたの?元気ない?」

「ソーマ!!!」

「ぷっ」

「昨日はごめんなさい。遊びに来てくれたのに放ったらかしにしてしまって…。」

「大丈夫だよ。」



にこにこ笑ってる。よかった、ソーマで。

気付いたらソーマは側にいることが多い。ごはんの時も一緒にいてくれる。



恐る恐る聞いてみた。


「ねえ、ソーマは私のお父様に会ったことはある?」



「………あるよ。」

「ほんと!?どんな人?私思い出せなくて。」

「………。」



訪ねるとソーマの顔が険しくなった。

私から目線をはずして、何かを考えているようにも見える。




聞いちゃ駄目だったのかな……。







「……ちらほら白髪が混ざった髪で、背は俺より高いかな。銀色の縁の眼鏡を描けていて、無口。」



ぱっと顔を上げたかと思うと、真面目な感じに作ったような口調と表情で私に説明した。

すぐに言われたことを理解できなくて、ちょっと間があった後、私は笑ってしまう。ソーマは面白い話はあんまりしないけど、言い方が面白くて好き。



「真剣に言ってみたんだけど。」

「あははっ、変なの~。」

「あとね、娘のこと、すっごく大事に思ってるよ。」

「………ほんとに…?」

「うん、ほんと。」

「じゃあなんで会いに来てくれないのかな…。」

「シエリは会いに行かないの?」

「え……でも………。」

「会いたいって誰かに言った?」

「……だって……全然会ってないから…お父様のこと忘れてたみたいで………。ソーマに言われて気付いたの。」

「………。」



本当のことを話した。

自分の親を忘れるなんてって怒られるかと思った。でもソーマはちょっと悲しそうに私を見てる。

私はもう何も言えなくなって、床の上の自分の手のひらを見つめた。



会いたいかと言われるとそこまででもない。やっぱりそれは、長く会っていないせいだろう。



そう考えて、ふと疑問に思った。


いつソーマは会ったのだろうかと。





「…ソーマはいつお父様と会ったの?」




首をかしげながらソーマの目を見て何気なさを装って訊ねる。ほんとはちょっとだけ、怖い。





「………ほぼ毎日会ってるよ。………だって俺の父さんでもあるから。」









私は目を見開いて驚いてしまう。


言われた言葉が頭の中で何度も再生されて、それ以上考えることが出来ない。




とうとう返事をすることすら忘れた。

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