幸せな夢だけを。
なむなむ
第1話 雨と私
部屋の中が、昨日より暗い。
透明な、私と外を隔てる物の外側に、水が散っている。
上から落ちてくる水。それはたくさん落ちてくる。
私はその水の触り心地を知らない。
私と外を隔てるものが、触るのを許さない。
叩いたことがある。何度も何度も押したり、ぶつかってみたこともある。でも駄目。他の部屋の誰かが私を見に来るだけ。
どんどん暗くなって、やがて眠くなり、目が覚めるとその水は消えてなくなることが多い。
そうすると部屋は明るくなる。昨日のように。眩しくなる。外も、この部屋も。
水はどこからやってくるのだろう。
落ちてこない日もある。そんな日はなんだかぽかぽかすることが多い気がする。私の気のせいかもしれないけれど。
私が飲む水と同じように見えるそれは、同じように味やにおいが無くて、すーっと喉の奥に流れていくものなのだろうか。
カチャ……
扉が開く時の音だ。
私、なにもしてないわ。ただ水を見ていただけ。
白い扉が私の方に向かって動き、入ってきたのはお母様。栗色の髪を首の後ろでしばったこの間と同じ姿で、静かに扉を開く。
お母様はいつも何を考えているか、私にはわからない。怒ってるのか、喜んでいるのか、声を聞くまでわからない。
「シェリ。ご飯よ」
シェリ。私の名前。
シェリ、トーノで、私の全ての名前。ほとんどの人がシェリって呼ぶ。
ご飯。そうだ、もう外は真っ暗だ。真っ暗になったら今日という日の最後のご飯。
「食べる!」
今日はなんだろう。
今日の最初のご飯と、次のご飯は美味しかった。
毎日美味しいからご飯は好き。
立ち上がって白い扉へ駆け出す。
お母様は微笑んでいる。笑顔だ。
「冷めない内に召し上がれ」
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