響・鬼鳴り

風祭繍

Verse 2. Strike Back to the Economic Empire

第41話 盗み聞きってやつはいいもんだぜ

Day Side

 毒喰派のみんなに協力してもらって、俺は試すことを繰り返していた。俺の体、鋼鉄派の装備。それらがもたらす影響の変化を調べたかった。わかったことは、俺たちがもたらす影響は相当に変わっていた。毒喰派へのダメージは静電気がもたらす痛みくらいのもののようだ。痛みは人それぞれで、飛び上がるくらいだったり、大して何も感じない者もいた。そして、接触を繰り返すうちにその痛みは徐々に弱まっていった。


 俺はヴェロニカの許しを貰って「秘密の部屋」にやってきた。


「部屋と言う割には広いな」

「まあ、あれよ。バジリスクがいたのも大きかったみたいだし」

「バジリスク……ってなんだったっけ?」

「……色々あるのよ」

「ふぅん」


 俺は広い空間の一角に目をやる。その部分だけが手つかずの印象を受ける。他はほぼ全てがヘイヴンで見かけるようなあれこれで染められていた。精霊が光喰を纏わずにうろついていたり、馴染みの顔を見かけることもあった。だが、あの部分だけは妙な感じがする。

「なあ、あれは?」


「あそこは……実有の部屋」

「部屋って……なんだ?」

「それは……彼女が自分で作った自分のための部屋。彼女が眠るための部屋」

「いや、それなら――」

「そういうものなの。私は入れてもらったけど……あそこには入っちゃダメ」

「そうなのか?」

「あそこは、私たちが手を入れちゃダメなの。彼女が自分から私たちを招いてくれるまで」

「へえ」


 よくわからないがそうすることにした。きっと大事なものがあるんだろうな。


「それで、大丈夫なの?」

「ああ、鋼鉄派との連携は確認した。きっとこの部屋に来ても大丈夫だろう。危ないと判断したら改良型のスーツを着てもらう。きっと、ここをみんなで守れる」

「そう。ありがとう」


 ヴェロニカは何か大きな攻撃が起こる予感を持っているらしい。警戒は強めているがその動きは見られない。彼女にしかわからない何かなのか。予感だけで警察や警備組織が動くわけにもいかない。俺たちが出来る力を総動員するしかない。


「そういえば、あの話、詳しく聞いてなかった。続き聞いていい? 今」

「あの話って?」

「あなたが二重スパイを懐柔していた時の話」

「ああ、あれか」


 ヴェロニカが聞きたがっていたのは俺と毒喰派の二重スパイとの関係だ。俺がやっていた行為は結局そいつを三重スパイにしていたのではないか? ということだった。


「その指摘は正しいだろう。だが、俺がそいつの雇い主にはならない、ということは、その二重スパイは現在の雇い主に俺に情報を漏らした、ということを報告してもいいことになってな」

「……うーん、むずかしいわね」

「たしかにな。俺も何故そうしようと思ったか、正確なところはわからない。だが、二重スパイの雇い主は、俺の存在を嗅ぎつけるだろう。そしてそれを含めて策を練る。そうすれば、俺の許になんらかの「結果」が現れるんじゃないか、と思ったわけでな」

「うーむ、ちょっとわかった気がする」

「そうか」

「うん。きっとあの本のおかげね」

「本って、あれか? 実有が書いたってやつ」

「そう。あれ」


 そう言ってヴェロニカは少し遠くを見るように話した。


「私の予想する所だけど、彼女はあれを13~17歳くらいの時に書いたことになる。彼女の頭脳は、はっきり言って異常よ。こんなことがその歳の人間にわかるはずがない。そしてわかったとしても、書けるはずない。ごめん。変だよね。言ってること」


 少し涙ぐんでいるようだ。


「いや……何となくわかる。そうだな。どんなことが書いてあるか聞かせてくれないか? お前が読むのを聞くんならいいだろ?」

「ええ、そうね」


 ヴェロニカは例の本を持ってきて、俺に読んで聞かせてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る