3話-乾き
「名古屋においでよ。」
私は毎日そう書き続けた。
観光地が無いとか、魅力に欠ける都市だなんて、この街を深く知らない人達が語る妄言だ。
「名古屋においでよ。」
そう書きながら私は、毎日名古屋について調べ、街を歩き、魅力を発信し続ける事を決めた。
そもそも他の街で育った私から見れば、この街は魅力に溢れているし
どこを歩いても、私から見れば観光名所だ。
地元の人たちが気付かないだけで、珍しい物はどこにでもあって
それら一つ一つを切り取って、私は呟き続ける。
SNSを始めた当初は受け入れられない事も多かったが、「おいでよ名古屋」という安直な名前で活動を続け
半年が経とうとしていた頃には、私を「おいなごちゃん」という愛称で呼んでくれる人も現れるようになった。
私は誰なんだろう?
そんな気持ちが作った存在が、私に居場所を与えてくれたのだ。
そう、私は「おいなご」
あらゆる人に名古屋を知らしめるために活動を続ける存在で、あらゆる人を名古屋に呼ぶために努力を惜しまない。
毎日を浪費するだけだった人生が輝きだした瞬間が嬉しくて、夢中でこの街の情報を調べ発信していく日々。
しかし同時に気付いてしまった事もある。
それは、名古屋は私一人が歩くにはあまりにも広すぎるという事だ。
一人での限界を感じながらも、それでも私は情報を集め続け
誰よりも多くの言葉を使い、名古屋の魅力を必死に伝え続けた。
ここで辞めてしまうと、私の全てが失われるような気がして
私の存在が消えてしまうような気がして
毎日、恐怖から逃れるように呟き続けた。
私と彼女が出会ったのは、そんな孤独の日々を過ごしていた、ある夏の日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます