模写

●概要

商業作品として出版されている作品を書き写す訓練方法。

手書きでノートに書き写す方が効果的とされているが、

テキストエディタ等にキーボードで打ち込む形でも充分な効果がある。

(スマートフォンによるフリック入力による効果は未検証)


●訓練の趣旨

反復練習により”型”を脳に憶えさせて、

一文ないしビート単位での文章構成を無意識下で処理できるようにするためのもの。


実際にプロが

「シーンの始まりをどう処理しているか」

「キャラクターの台詞の後の描写はどうしているか」

「文庫本見開き2ページを1カットとして見た時、全体がどのように展開しているか」

等を考えつつ何度も書き写すことで、

実際の執筆時にもその型にそって楽に書けるようになる。


1『目で情報を得る』→

2『脳で処理する』→

3『手で出力する』→

4『出力した情報を目で見て、元の文章と比較する(1に戻る)』→


という循環を繰り返すため、基礎的な文章力を効果的に身につけられる。


なお、反復訓練による文章技能の習得であるため、

続けられる範囲で可能な限り毎日続けることが肝要。



●コツ

・毎日少しで良いから続けること

・良いと思った描写、伏線の回収方法を別途メモすること

・書き写しながら作者がどういう意図で文章を配置したのか考察すること


の三点を意識しながら続けて貰えると効果的です。


・『毎日少しで良いから続けること』

僕の場合は毎日文庫本4ページ分だけ書き写しています(大体15~20分程度)

ですが最初は大変だと思うのでもっと少なくても良いです。

なんなら長編の執筆をする時間は無くとも、模写をするだけでも筆力低下の予防になります。(それでも書かないと腕が落ちますが)



・『良いと思った描写、伏線の回収方法を別途メモすること』

まず、初心者の頃は脳内に文章表現のストックが経験者に比べ圧倒的に足りません。

この表現や言葉を脳内に蓄積させる方法としては『読書』がまず挙げられますが、

『模写』はこの上位互換と断言できます。

最も効果的な読書方法と言っても良いです。

ですが、それでも脳内から溢れる表現はありますので、「この表現方法が良いな」と思ったら別途メモしてまとめておくと、後日。文章で悩んだ時に役立ちます。



・『書き写しながら、文章がどういう構成をしているかザックリ把握する』

これが最も重要です。

文章構成にはある程度決まった型があり、それぞれプロは自分の型のようなものを持っています。この型を真似ることが『技術を盗む』に該当します。


(※なお他人文章を自作へコピペするのが『盗作』です。

プロが実際に行った構成の方法を(技術)を理解していないから、自分で作れない。自分で作れないから、同じようなシーンを作りたいと思った時に丸パクリしちゃうわけですね)


なので

『一文』の構成の仕方、一文を複数集めた『文章』や『シーン』の構成を分解して理解することがとても大切です。


『型を自身の脳に刻み込んで、そこに自分が書きたい情報を流し込み、文章にする』

『やがて先人たちの”型”を少しずつ崩していく』

『最終的に自分自身だけの”型”を身につける』


という事を目的にしてください。

 

以下に例をあげます。

これは片山憲太朗先生が基本にしている型です。

(Lは行数ないし1文を示します)

(ビートとは一つの展開の塊を示します。四コマ漫画の1コマ分の情報量)


1L「~登場人物Aの台詞~」

2L「~登場人物Bの台詞~」

3L登場人物Bが台詞を発した時の描写(注目させたい部位を表現、口元、目元、髪)

4L『3L』で描写した登場人物Bの部位と周囲の状況を、比喩や対比によって絡めた文章

5L『4L』を受けて、次のビートへ繋げるための、登場人物Aのモノローグ。

6L「~登場人物Aの台詞~」

7L『6L』の台詞を発した時の登場人物Aの描写(行動、動き、反応)

8L『7L』の登場人物Aの動きを受けて、登場人物Bの反応を描写

9L「~登場人物Bの台詞~」

10L「~登場人物Aの台詞~」

以下ループ構造


これはシーンの途中で使うための型なのですが、

シーン冒頭でも使える割と万能な型です。

10Lからまた1Lに戻ることで延々と繰り返せます。

(もちろん、それで面白くできるのは天才だけです。西尾維新先生なんかは繰り返すだけで一冊書き上げてます。天才め…………)


この型について順に説明します。

まずこの型は『読者が感じるストレスを可能な限り減らして情報を伝え、要所で読者の興味を惹くこと』と目的としたものです。

『失点を抑えつつ、得点を狙う型』と言っても良いかもしれません。


・1Lと2Lは、読者へのストレスを減らすために、短い台詞をふたつを並べています。導入部からいきなり長い文章だと読者の脳に負担がかかり「なんか読みにくい」となります。

読書意欲は文章を読む限り延々と消費され、

また展開を面白いと感じることで読書意欲は回復します。

なので最初は「わかりやすいこと」が大前提です。

(なお、それだけだと興味も薄れるので『わかりやすくしつつ少しだけ負担をかけて興味を惹く手法』が必要になります。

それを見つけられるかどうかが初心者を脱する境目になってるような気もします)


・3Lで登場人物Bの描写を入れるのは、読者が映像をイメージしやすいようにする為です。仮に登場人物Aを主人公とした場合、登場人物Aと読者は非常に近しい視点を持つことになります。つまり主観に近いです。

主観で他人を見る場合、言葉を発した相手の顔や仕草を見ることが多いと思います。

なので、

ここで登場人物Bの顔や仕草を描写しないと、読者はその情報を得られないため違和感を憶えます。日常生活では得られる情報が得られないため無意識下でストレスを感じて、読書意欲が減退します。


・4Lで登場人物Bの描写と絡めて周囲の状況を描写するのは、読者への負担を減らしつつ空間を演出するためです。

情報は連結されていた方が理解がしやすいので、

『髪』→『黒い』→『暗い』→『闇』→『夜』といったように、読者が行う連想ゲームをこちらで想定します。

例えば


3L―― 言って、彼女は常闇の黒髪をかきあげる。

4L―― 今日は新月の夜だというのに、その漆黒は夜に呑まれることなく――いやむしろ呑み込んでしまうほどに暗く、そして深い。


というような感じに構築します。

(即興なのでクオリティは許してください)


・5Lと6Lと7Lは読者の興味を惹くことで、読書意欲を回復させるためのものです。

1~4Lまでは基本的に全て順接で情報が続いています。

これは読者が情報を想像しやすいですし負担は少ないですが、興味も惹かれないので読書意欲は低下し続けています。

なのでここの辺りで文章の流れを転調することで、読者の興味を惹き、読書意欲を回復させます。

(これまで失点を抑えてきましたが、守備から攻撃に転じる部分ですね)


例えば、

5L―― その深淵に抗うべく、僕はソレを手にした。

6L―― 「もうやめよう、白鷺さん」

7L―― S&W- M36。隠し持っていた38口径のリボルバー。その銃口を彼女の額につきつけた。


というように、

ここまで重ねてきた情報に対し『抗う』『否定』『黒ではなく白』という情報を与えて読者の視点と意識を別方向に誘導するといったことができます。

なお、そのまま順接となる情報展開の場合は、これまで使った情報とは異なる要素を持つ情報を入れることで、連想ゲームの幅を大きく広げることもできます。


・8Lは再び、読者の負担を減らすことで、5L6Lで稼いだ読書意欲を維持させることが目的です。

もちろんここで、意外性のある台詞を入れることで読書意欲を稼ぐことを目的としても良いです。

ただ、5L6Lで登場人物Aに意外性のある行動、展開を否定する行動をさせた場合には、読者の情報処理能力のキャパをオーバーして「この人達なにしてるか分からない」「感情移入できない」などの印象を抱かせる危険性があります。

5L6Lとの兼ね合いを見ながら、登場人物Bのキャラクター性を深めるような描写と台詞が良いかと思われます。


・9Lと10Lは、シーンの仕切り直しを目的とした部分です。

1Lと2Lの台詞と順序を逆にすることで、会話の主導権や視点を切り替えた印象を読者に与えて、実際にはほぼ文章構成は同じなのにも拘わらず読書意欲を維持させることができます。

なのでここからもう一度、同じ構成で文章を続けることもできます。



――というように、

プロが実際に書いてる文章構成を自分なりの分解できるように意識しながら模写すると、技術が身になります。



●補足

急ぎ足で書いたので、質問があったらコメントに残してください。

もちろん「それは違うよ!」というツッコミも大歓迎です。

僕の技術向上に繋がるので。





















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