第2話
「うっ…なにがあったんだ」
気付くと、そこは自分の部屋ではなかった。
意識がまだはっきりしてないが、現状を把握するためにまわりを見渡す。
「風呂に持って行く着替えはどこに行ったんだ…」
そういう場合ではない。
「てか…なにがあったんだ?さっきまで確かに自分の
部屋にいたはずなんだが」
しかし、何故か浩人はそれほど取り乱していなかった。
「これは…もしかして俺の望んだ…異世界転生なのではないか?わかんないけど」
勇者になりたかった浩人にはもってこいの展開だった。
「よし、まずは周辺確認!異常…なし!」
異世界に飛ばされたときにまずしなければならないこと。それは自分自身の状態確認だ。
もし転生した先が何かの身分に就いていた場合、周りに悟られないように行動する必要がある。思わぬトラブルを起こさないための処世術だ。
その他に転生するに至って注意することはたくさんある。
もし、自分が人間ではないなにかになった場合動作の方法に違いがあると後々の行動に支障が出たり、最悪動けない場合がある。
「俺…立ってるな。手も普通だし、顔は確認できないけどおそらく人間のままだと断定しても問題なさそうだな」
自分の容姿に問題がなかったら次は初期の持ち物。持ち物の有無、内容によってこれからの行動が大きく変わる。
それとは別に、自分は生きているので食糧や飲み物が必須になってくる。その他気温によっては着るものや寒暖に合わせた環境を整える必要性が出てくる。
「自分が着てる服はさっきまで着ていた服だ。靴は…いつ履いたんだ?全く覚えていない…
ん?後ろにリュックが落ちてる…中身は…これは、ろうそく?」
リュックにはろうそくが1本だけ入っていた。
「これでどうしろと…」
でも何もないよりは断然いい。
「むしろありがたいのはリュックだ。これがあるのとないのとでは物の運搬能力に圧倒的差が出るからな」
例えば暖をとる場合、野外で過ごすときは火をおこすことになる。夜になった際の明かりとしての役割だけではなく、凍傷などの防止、食料を調達できた場合の調理器具としても活躍する。同じ場所に長期滞在する場合は期間に応じた木材を集めなければならない。手で持つには限度があるのでリュックがあると運搬量がより多くなる。
「あと気になるのはこの世界の構造だが…ここは日本なのか?そもそも地球かもわからん…」
まだこの世界に来て間もないため、何の情報もなく今の時を過ごしている。
重力や空気などに特段変化は見られない為、それほど焦ってここを動く必要はない。そう浩人は思った。
「と、とりあえず火だ!文明は常に火から始まったんだ!」
偶然にも周りは木々に囲まれており、火を起こす材料は揃っていた。
「そうか!このためのろうそくか!」
ろうそくに火をつけておくだけで、その後しばらくは火をおこすのに苦労しなくて済む。
サッとリュックからろうそくをとりだす!
火を…発火源がない!
ちくしょう!台無しにしやがった!お前はいつもそうだ
このろうそくはお前そのものだ
多くのことに手を付けては何もやりとげられない
誰もお前を愛さない
誰も…?
「俺はそうは思わん
証明して見せよう
俺にはそれができるはずだ!!!!」
浩人は一旦落ち着いて燃やせるもの集めることにした。
火がつけられたとしても、さすがにろうそくだけでは心許ない。
「葉っぱとかでいいのかな。枝とかあったほうが長持ちするだろうなぁ」
季節が冬に近いのか、大量の落ち葉や小枝が落ちている。がしかし、最近雨が降ったのか落ち葉がびしょ濡れだった。この様子ではたとえ燃やせる木があっても燃えるかどうかは別の話だ。
「火は諦めるか…ここは放棄して街を探すか。その途中で誰か人にも会えるかもしれないし。」
火をおこすことをあきらめ歩き出す。
しかし夜になることを考え、できるだけ乾いた小枝を集めながら街を探す。なんて堅実。さすが勇者志望なだけはある。
「とりあえず西に向かおう。太陽が落ちているみたいだからあっちが西で間違いないだろ。
昔…太陽が西から昇るのか東から昇るのかちゃんとしらなかったことがあったんだよな。その時に見たアニメで太陽の昇る方向が歌詞に入っている曲があった。それで覚えたんだけど…
くっそ、バ○ボンめ…ほかの人に言ったら真逆だよってバカにされたのは一生忘れんぞ」
勝手に思い込んだだけなので某アニメには罪はない。
それからしばらく浩人は西を目指した。太陽が仕事を終える時が刻一刻と迫っている。
「まずいな…太陽が沈みきったら方向もまわりの状況もわからなくなる。とりあえず誰か人を探さなきゃ」
歩く足が少しだけ早くなる。確かに進んではいるのだが、どこに行けばいいのかわからない浩人にとっては進んでいないにも等しかった。
自分が進む速度を速めると、太陽もそれに合わせて早く落ちる。そんな錯覚に陥っていた。
「誰もいないのか。いよいよ本格的にまずくなったぞ…」
このまま夜になってしまうと行動すること自体が危険行為になってしまう。
歩くことを止め、リュックを置く。リュックの中からさっき集めた小枝を出し、火をおこそうとする。
しかし枝は濡れているうえ、マッチなどの火をつける道具を持っていない為うまく火をつけることができない。
「くっそ…さすがにまずいか」
しかもこの場所がどんなところか認識していない中で野宿はとても危険だ。もしかしたら獰猛な動物がちかくにいるかもしれない。心が不安で埋まっていく、そんな中。
目の前に、人がいた。
「あ!やった!人だ!」
浩人はリュックだけを背負い、薄れゆく明かりを頼りにその人へ向かって走った。
見たところその人は女性のようだった。背格好から、女性というよりも少女と言ったほうが正しいかもしれない。身長は少なくとも浩人より明らかに低い。つまりロリっこ。しかし、猫の手も借りたいという今の状況。選んでいる余裕はない。
「すみません!助けてください!道がわからないんです!」
いきなり会ってそんなお願いはとても不躾だと浩人は思った。しかしそんなことはどうでもよかった。
「気付いたらこのあたりに立ってて…何を言ってるのかわからないとは思いますが自分でもわからないんです!とにかく村か町がどこにあるのかさえ教えていただけたら助かります!」
ずっと急いで道を進み、最後は全力で走った為息があがってしまっている。自分では発声したつもりだが、もしかしたら相手に伝わっていないかもしれない。浩人は一旦息を整えることにした。
「すうぅぅ…はぁぁぁ…」
何度かゆっくり呼吸をする。呼吸が穏やかになったのを確認して、再び同じ内容を伝えるために少女のほうを見る。
「あの!教えてほしいことがあるのです…が…え?」
浩人は女性の顔を見ると、声を失った。
少女は泣いていた。
「あのっ…どうして泣いてるんですか?」
「えっ、私…なんで泣いて…そっか、きっと安心したから…う、うわぁぁあああん!」
いきなり彼女は泣きだした。
「ちょっとぉぉ!?泣きたいのは俺のほうだよ!」
この修羅場は今の状況下では最悪だった。
「ととととりあえず落ち着いて!ね?」
「ううっ…ぐすっ…」
段々と感情が落ち着いてきたのだろう。少女は次第に嗚咽が収まり、落ち着きを取り戻した。
「どうして…泣いていたの?安心したってどういうこと?」
浩人は少女に問う。それに対し、少女はこう答えた。
「迷ったの」
「…迷った…?」
「うん」
欲しくない答えだった。
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