三十五箇所目 三嶋大社宝物館「あやかし冥菓見本帖」資料探索篇 其の一 静岡県三島市

 お明神さまこと三嶋大社。

 今回は、静岡県三島市の三嶋大社の境内にある三嶋大社宝物館へ、本を買いに行きました。

 尚、行きましたと言いましても、実際に訪れたのは昨秋のことになります。


 こちらへは、カクヨムコン3参加作品「あやかし冥菓見本帖」の資料集めと、現地取材のために訪れました。


 「あやかし冥菓見本帖」は残念ながらカクヨムコン3は中間突破したものの最終選考までとなりました。

 とはいえ、たいせつに育んだキャラクターたちと物語ですので、より多くの方に読んでいただきたいと心より思っております。

 つきましては、この資料探索編をお読みいただいて、本編にも興味を持っていただけましたら、うれしいです。


 というわけで、今回は趣向を変えて、作中の文章を引用をしながら進めてまいります。

 引用ですが、未読の方のネタバレにならないように、ここぞというところは引用しないように、気をつけながらご紹介してまいります。


 では、早速、資料探索へと出かけましょう。



 さて、三嶋大社ですが、初詣をはじめ何度も足を運んだことがあり、巫女の助勤もしたことがあるという、たいへんなつかしく親しみのある神社です。

 が、受験の年のおみくじで、よりによって大凶を引きまして、目が点になったのも、今となってはよき思い出です。

 おみくじ当たるんだー、と二度目が点になったのも、よき……苦き……思い出です。


 まずは最寄駅ですが、JR東海道線、東海道新幹線、伊豆箱根鉄道駿豆線の三島駅です。

 在来線と新幹線が同位置にあるため、乗り換えはたいへん楽です。

 

 では、ここで、作中の三島駅でのシーンをご紹介します。



・・・・・・



 新幹線で東京から小一時間。


 美美みはるは、新幹線のホームに降り立つと、北の方角に富士山が見えるのを確認して、ほっと小さく息をついた。


「ただいま、今日もきれいだね」


 口に出して言ってみると、一気に地元にもどってきた感が増した。


 美美は、新幹線のホームを長いエスカレーターで降りて、乗り換え改札に出て、連絡通路を抜けて南口に向かった。


<中略>

 

 三島駅南口へ出ると、新幹線の駅ができても変わらない、おっとりとした駅前広場の様子に、美美は、ふっと肩の力が抜けた。


 バス乗り場の脇を通り抜け、この町ならではのせせらぎに耳を洗われながら、美美は家へ向かって、駅前のゆるやかな坂を下っていった。


 富士山からの伏流水の豊かなこの地では、町のあちらこちらに清らかなせせらぎが見られる。


 水辺には緑が豊かで、ジオパーク的な興味を魅かれる富士山噴火時の溶岩が、オブジェのように町のところどころに突出して、ここが富士山とつき合いの長い土地なのだと示している。


 観光地伊豆箱根への玄関口でありながら、騒がしくなく穏やかに時の流れる町、それが美美の生まれ育った故郷だった。


 清流は、一時期枯れたり濁ったりしたが、町の人たちのたゆまぬ努力によって、この美しさは保たれている。


<第二話 幼なじみと湧水グルメ>よりhttps://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884556736/episodes/1177354054884562075



・・・・・・



 この後は、三島名物「うなぎ」の美味しさについて話が続いていきます。


 さて、清流桜川をぶらぶら歩いていきますと、小さな橋がところどころにかかっている流れに出会います。

 その橋のいずれかが、物語の舞台言祝ことほぎ町へつながる橋なのですが……



・・・・・・



 美美は、店を出て、明神さまこと三嶋大社の脇を通り抜けて南下する桜川沿いに整備された、文学碑の点在する水上通りを足速に進んでいった。


 桜川には、こちらからあちらへ、あちらからこちらへ、湧水のせせらぎを渡るのに、小さな橋がいくつもかかっている。


 あるものはそのまま反対側の遊歩道につながり、遊歩道が途切れた後は、民家に、カフェに、お寺に、隣町へ続く道にと、橋の向こうには、せせらぎの街のさまざまな生活空間が広がっている。


 名前のある橋、無い橋、勝手に愛称をつけられている橋。


 いくつもある橋の一つは、美美の実家のある町へつながっていた。


 人見知ひとみしり橋。


 この橋の先に、美美の実家「菓子司美与志かしつかさみよし」があるのだ。


 一見、なんの変哲もない木造の橋だが、感じる才のある者は、この橋を渡って向こうの町へ行くとあやかしが見えるのだという。

 感じる才がない者でも、あやかしが人形ひとがたをとっている時は、見ることができると言われている。


<第三話 人見知り橋とお茶くみさん>

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884556736/episodes/1177354054884572592



・・・・・・



 おや、橋から、誰か現れました。

 男の子のようです。

 新茶の若葉色の髪、あれは、菓子司美与志のあやかし、お茶くみさんの井桁いげたのようです。

 ということは、あの橋が「人見知り橋」、なのでしょうか。


 あやかしの「お茶くみさん」は、最初の方で生れたキャラクターの一人です。

 美味しいお茶をいれてくれるかわいい子がいたらいいなー、という願望が、想念となって凝って生れ出たのかもしれません。

 頭をよしよしと撫でたり、髪の毛をくしゃっとしたくなる、そして、そうされるとやめろよーと怒ったりすねたりする、かわいいやつ、なイメージです。

 

 昨秋の訪問時に、だいたいイメージが出来上がっていたので、出てきてくれたのかもしれません。


 井桁は、川沿いにてくてく歩いていきます。

 けっこう歩くの速いです。

 せせらぎの小径を抜けて、左脇へ逸れないところを見ると、明神さま、こと、三嶋大社の大鳥居に向かっていますね、これは。

 図らずも、後をつけるような恰好となりました。

 

 しばし歩いて明神さんの大鳥居に到着しました。


 井桁は、ひょいひょいと階段をあがって、境内へ。

 私も、距離をとりつつ、大鳥居をくぐりました。


 本殿への参道は一直線です。

 が、井桁の姿が見えません。

 参道の両側に広がる神池を見渡してみました。

 左手の池の中には厳島神社が、右手の池のほとりには、赤松と黒松が一本の根から生えている縁起のよい相生松あいおいまつと若山牧水の歌碑、そして、でんと鎮座まします石が。


 私はスマートホンで三嶋大社の境内のご案内ページを開きました。

 「たたり石」

 ああ、そうです。

 この石は祟る怖ろしいものではなく、役立つ敬われる石なのです。



・・・・・・



 明神さまこと三嶋大社には、山森農産の守護神である大山祇命おおやまつみのみこと、福徳の神として商・工・漁業者から厚い崇敬を受けている恵比寿様こと積羽八重事代主神つみはやえことしろぬしのかみ御二柱おんふたはしらが、御祭神ごさいじんとして祀られている。

 御創建ごそうけんの時期については不明だが、奈良・平安時代には既に記録に記されているとのことで、平安時代中期「延喜えんぎの制」では「名神大みょうじんだい」に列格され、社名・神名の「三嶋」は地名になったとのことだった。


 中世以降では、伊豆に流謫るたくの身となっていた源頼朝が、源氏再興を祈願し通いつめたことが知られている。

 源氏再興に成功するや、頼朝は社領神宝を奉納し、三嶋大社は、よりいっそう武門武将の崇敬の対象となった。

 さらに伊豆国 一宮として、伊豆への玄関口として、天下にその名は広まっていったとのことであった。


<中略>


 大鳥居をくぐってすぐ右手に、たたり石と呼ばれる歴史ある名石めいせきが据えられている。


 「たたり」というのは、本来は怨霊が祟るという意味ではなく、「娘子らが 績み麻のたたり 打ち麻懸け うむ時なしに 恋ひわたるかも」と万葉集の歌にも詠み込まれている、古くからある織物の道具「たたり」に由来している。

 万葉集のこの歌は、麻の細く裂いた繊維を1本ずつつないで糸にしていく作業も出来ばえも飽きないように、あなたのことも飽きずに恋し続けていますといった、恋心を歌っている。

 

 たたりとは、糸のもつれを防ぐための道具である。

 台に三本の柱状の木の棒を立てて、そこに糸のかせを掛けると、糸が絡まず、スムーズに引き出すことができるのである。

 そのような用途から、「たたり」は、整理を意味する語として使われるようになった。


 たたり石は、もともとは大社の前の旧東海道の中央にあり、その昔交通整理の役割を果たしたとされている。

 ところが、後に交通量の増加に伴い、この石を移そうとしたが、そのたびに事故が起こり、いつしか祟り石とも言われるようになった。

 大正時代に大社の境内に移して後は、交通安全の霊石として拝まれるようになった。人々から尊崇されることによって、石も落ち着いたのであろう。


 井桁によると、人とあやかしの間が不穏になると、その石に、明神さまのお遣いさんが陣取って、お互いの関係修復を図るとのことだった。



<第二十八話 たたり石にて戀度鴨こひわたるかも>より

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884556736/episodes/1177354054884947440



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 おや、井桁が罰当たり!?にも、たたり石に腰かけて足をぶらぶらさせながら、何か頬張っているではないですか。

 草緑に小豆茶、ああ、明神さまの草もちです。

 三嶋大社境内の門前茶屋、福太郎茶屋の「福太郎」です。


 狂言風に行われる新年の五穀豊穣、天下泰平を祈願する予祝神事よしゅくしんじ「お田打ち神事」で、黒いお面を付けた婿殿の福太郎が福を授ける役割をするところから「福の種蒔く福太郎」として人気を博し、それにあやかって「福太郎」もちと名付けられた銘菓です。


 地元では、草餅にこんもり盛られたこしあんのフォルムから、「リーゼント」と呼ばれることもあるとかないとか。


 この地元銘菓は、主人公美美の大好物で、それを用意して待っていてくれたお方がいらっしゃったのでありました。



・・・・・・



 あやかしの青年は、それには答えず涼しい顔で、店の奥から菓子折をのせた塗盆ぬりぼんを運んできて、美美に差し出した。

 お盆には、三嶋大社の門前もんぜん菓子、境内のお茶屋の明神さま銘菓がのっていた。


「明神さまの草もち!」


 美美の目が輝いた。


「確か、お好きでしたよね。美美さんが帰ってらっしゃると聞いて、つきたてのを求めてまいりました」


 美美はこの餅菓子に目がなかった。


 見るからにもっちりとして甘々なこしあんたっぷりの草もちは、一つ食べてしまったらあとひきで、全部平らげてしまわずにはいられない。


 目にやさしい草色のころんとした形、もっちりとした舌触り、歯をたてると、微かにたちのぼるよもぎの香り。


 蓬の香りはひと噛みごとに匂いたち、春の野辺へと美美を連れていく。



<第五話 癒しの袂と明神さまの草もち>より

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884556736/episodes/1177354054884593044



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 井桁は食べ終わると、たたり石から身軽に飛び降りて、今度は、参道をたたたっと勢いよく駆け抜けて行きました。


 井桁の姿を追っていくと、参道の途中、神池の厳島神社の赤い欄干に、すらりとした青年が、ゆったりと寄りかかっているのが見えました。

 池を吹き渡る風に、なびく長髪も艶やかに、一服の絵姿となって彼は微笑みます。


 そうです。

 この青年こそ、冥菓道には欠かせない存在の“彼”なのです。

 すらりとした美形で、長髪で、行動が男前なあやかし、すずろです。


 井桁は、ききーっと音がしそうな急ブレーキで立ち止まると、バック走りしてすずろのところへもどり、何やら話しかけています。

 そうしているうちに、二人は連れ立って、今度は、散策するように歩き出しました。


 池を通り越したところに、総門があります。

 総門をくぐると、左手が社務所になっていて、右手に宝物館がありました。



・・・・・



 宝物館には、源頼朝、北条政子ゆかりの宝物が展示されている。

 常設展のコーナーには、三嶋大社の歴史や資料がわかりやすく展示されている。

 北條政子が奉納したと伝わる国宝の化粧道具一式が収められた「梅蒔絵手箱うめまきえてばこ」は、完全なレプリカが作られ、それが展示されている。また、源頼家みなもとのよりいえが奉納した現存する唯一の自筆書の「般若心経」は重要文化財として保管されている。

 一階の一部はギャラリーとしても貸し出されていて、市民が使えるようになっている。


<第二十九話 郷土資料館分館館長と神饌しんせん菓子>より

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884556736/episodes/1177354054884955990



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 三嶋大社宝物館には、ミュージアム・ショップがあります。

 宝物館は午後4時半までで入館は4時までです。

 ここまできて資料を入手できなかったら元も子もありません。

 なので、本殿参拝の前に、宝物館へ寄ることにしました。


 館内は受付の女性以外、三十代くらいの男性が一人、郷土資料とおぼしき薄い冊子を立ち読みしてるだけでした。

 サラリーマン風でも自営業風でもないので、市役所などの公務員かなと思いました。

 もしかしたら、宝物館の学芸員さんなのかなとも思いました。


 ざっと館内を見学をしてからミュージアム・ショップで、三嶋大社が発行している『三嶋大社<略史>』を求めました。

 『三嶋大社<略史>』は、紺色の布表紙に金文字で「三嶋大社」と品よく箔押しされています。


 帰りに時間があったら、もうちょっとショップを見ようと思い、資料を手に本殿へと向かいました。




<三嶋大社宝物館>

最寄駅 JR東海道線 東海道新幹線 伊豆箱根鉄道駿豆線 各三島駅

三嶋大社のホームページで詳細をご覧いただけます。


<今日買った本>

『三嶋大社<略史>』

三嶋大社発行

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