二十七箇所目 自由学園明日館 西池袋


 桜の季節に訪れたくなる場所の一つに、自由学園明日館みょうにちかんがあります。


 帝国ホテルの設計で知られるアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトによる重要文化財に指定されている学校建築です。


 桜の古木越しの広い前庭の奥に、すっと建つシンメトリーの建物は、アールデコ期創建の雰囲気漂う、すっきりとした佇まいの美しさがあります。


 街中にあって都会の喧騒とは無縁の空気がそこには流れています。


 日々の営みの計画が重なり疲弊した時には、こうした、ぬくもりはあるけれども静かな場所で休息するに限ります。


 と思いたって、今回は、本を買いにこちらへ出かけることにしました。

 

 明日館の最寄り駅は、山手線の目白か、各種路線の乗り入れいる池袋です。


 池袋から行こうか、目白から行こうか、いつも迷ってしまいます。

 自由学園明日舘は、西池袋にあります。

 西池袋という場所は、目白駅から行く方が、案外近い場所もあるのです。


 池袋駅を抜けて地上に出るまでの人混みですでに疲労すると予測して、今回は、目白駅から行くことにしました。


 目白駅で降りて横断歩道を私、山手線沿いに池袋方面へしばらく進んでいきます。

 やがて前方に西武新宿線が見えてくるのでその高架下をくぐって道なりに進んでいくと、左手に婦人之友社が見えてきます。そこを左折すると、すぐ右側が明日館が現れます。


 訪れた時は、大きな古木の桜が、ほころび始めていました。


 羽仁吉一・もと子夫妻によって大正10年に創立された創建時は女学校だった自由学園の校舎は、当時帝国ホテルの設計で来日していたライトに、夫妻が頼んで設計してもらったものです。


 高さを抑えて、大地と並行に横へ長く、水平線を強調した建築で、建具や窓枠、家具などは、全て幾何学的なデザインで構成されています。


 実際に中へ入って、大教室、ホール、食堂、会議室と見てまわりますと、日本の木のぬくもりと、西洋のアールデコ調のデザイン性が調和した、なんとも居心地のよい空間が広がっているのがわかります。


 学校自体は、昭和9年に東久留米市に移転し、その後、明日館は卒業生の諸活動の拠点として使われてきており、現在は、会館事業として結婚式や講座などで施設をレンタルして利用することができるようになっています。


 自由学園明日香館は重要文化財ですが、「動態保存」というちょっと珍しい方式のモデルとして運営されています。

 施設利用についてのパンフレットに、「動態保存」について記載されています。


「自由学園明日舘は重要文化財ですが、建物である以上使ってこそ残した価値がると考え、使いながらの保存、いわゆる“動態保存”として貸出も行っております。『文化財』であることを認識し、大切にご利用下さい。」


 使ってこそ生きる。

 美しくつくられたこの建物も、生活のために、人間が関わってこそ、生きてくる、生きていくものなのだなと思うと、感慨深いものがありました。


 受付で、お茶付の入場料を払って、前庭を通って入口から中へ入りました。

 中へ入ると、落ち着いた雰囲気の空間が広がっていました。

 学び舎というより、寄宿舎のような雰囲気です。


 一つ一つの調度品が、クラフトマンシップにのっとって作られ、簡素でありながらデザイン性があって、ぬくもりを感じさせます。

 幾何学的な装飾 ライト自身がデザインしたという照明は当時のままだそうです。


 光を採り入れる正面の大きな窓は、木枠の直線で洗練された様式になっています。

 暖炉があり、炎が見えてくるような、おとぎ話の部屋のような趣のホールです。


 ここで、ティータイムを過ごせます。


 コーヒーとクッキーをいただきました。

 コーヒーは、日本のカフェ発祥のパウリスタのコーヒー。

 クッキーは、自由学園食事研究グループの手作りクッキー。


 コーヒーをいただきながら、受付でもらったリーフレットを広げました。


 そこには、特徴的な建築についての説明がありました。


「軒高を低く抑えて水平線を強調した立面、幾何学的な建具の装飾は、「プレーリーハウス(草原様式)」と呼ばれる一連のライト作品の意匠を象徴しています。日本に残るライト建築の特徴である大谷石が多様され、建物の基本構造が現在の2×4工法の先駆けと言われるなど、他の日本建築には見られないライトの作風を示す典型的な建築です。」

 

 それにしても、照明器具、椅子、一つ一つが凝っているのに邪魔になりません。

 この館の中にいる間は、外の世界とは隔離されて、秩序だってかつ自由に勉学に勤しむことができるようです。


 美しい形の窓から射し込むやわらかな陽射し。

 文庫本を開いてのひと時にふさわしい、そんな空間です。

 

 では、本を買いに、自由学園明日館JMショップへまいりましょう。


 ゆったりとした空間のショップには、オリジナルグッズから、手仕事の美しい工夫された品が並んでいます。

 何人ものお客さんが、ギフト用にグッズやお菓子を求めていきます。

 一番人気は、クッキーで、火曜に入荷してもすぐに売り切れてしまうとのこと。


 「自由学園食事研究グループ」という、「食」に関する勉強会のみなさんが作ってらっしゃるとのことです。

 教育施設ということで、「食」にも気配りをしているのですね。


 と、目に入ってきたのは、『自由学園最高の「お食事」95年間の伝統レシピ』。

 大正10年に創立されたとのことで、大正から昭和初期にかけてのハイカラ洋食と滋味溢れる和食のメニューが並んでいます。


 マッシュポテトとミートソースを重ねてオーブンで焼いたシェパーズパイ、まろやかなホワイトソースのかかったチキンピラフ、ロールキャベツに、スコッチエッグ、マカロニクリームコロッケ、煮込みおでんにちらし寿司、etc


 じっくりと、きちんと、手をかけてこそ美味しさが感じられるメニューですね。


 その本も魅力的でしたが、今回は、建築に注目しての訪問だったので、『フランク・ロイド・ライト 自由学園明日館 東京1921』を求めました。

 この美しい建物について、多くの写真とともに詳しく説明されている一冊です。

 表紙の夜桜とライトアップの写真が美しいです。


 訪れてみて、窓の形や窓枠で区切られた窓の形の多彩さがとてもよかったです。


 窓は、光を内に招き入れ、目を外に向ける、たいせつなものです。


 明日館は、育ち盛りの少女たちのさんざめく声が、ホールの高い天井のそこここにひっかかっていて、ふとした折に、きらきらと降ってくるような、そんな生きている建物です。




<自由学園明日館> 


最寄駅 山手線「目白」駅

    山手線「池袋」駅他

関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。


<今日買った本>

『フランク・ロイド・ライト 自由学園明館 東京1921』

 谷川正巳文 宮本和義写真

 バナナブックス発行

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