二十五箇所目 古書肆 田園りぶらりあ 田園調布
「ぜったいに欲しくなる本があるから、行きましょう」
と、知り合いに誘われ続けて
行こう行こうと思いつつ、行きそびれていたのが、田園調布にある「
田園調布の駅の改札を出て、お屋敷町とは反対側の個人商店の並ぶゆるやかな坂を下りて行きます。
坂を下りた突き当りを右に折れて、少し歩くと到着です。
うっかり通り過ぎてしまうと、その先に点在する、こだわりのパン屋さん、パティスリーなどで散財してしまうので要注意です。
青地に白で書かれた「田園りぶらりあ」の文字がぱっと目に飛び込んできます。
大きな窓から中が見えます。
文庫の棚が並び、その奥にはハードカバーの棚、棚、棚、主に人文系のものが本のの逍遥へ誘うように取り揃えられています。
無造作に積まれているようで、店主さんはどこに何があるかはわかっていらっしゃいます。
たずねると、この辺だよ、と、すぐに対応してくださいます。
この地に昭和47年に開店した正統派古書店です。
ところで、みなさんは、初めて訪れた古本屋さんで、まごついたことってありませんか。
それは、その店が、主に取り扱っている分野と本の配置がわからないからですよね。
でも、しばらくじーっと眺め渡しているうちに、目が慣れてきて、その古本屋さんと自分との相性がわかってきます。
はたして、この店は、滞在すればするほど欲しくなる本が見えてくる本屋さんでした、私にとって。
今回手にした『古地図・道中図で辿る 東海道中膝栗毛の旅』は、2006年発行で、決してものすごく古い、貴重、という本ではありません。
でも、いざ買おうと思った時に、新刊書店では見当たらないタイプの本なのです。
それを思うと、やはり、古書店はいいな、と思います。
ちょっと前の本を置いておいてくれる本屋さんというのは貴重です。
なぜその本を手にとったかといいますと、その時書いていた「あやかし冥菓見本帖」の舞台が東海道の三嶋宿に当たるので、何か参考にならないかなと思ったのです。
そうしましたら、三嶋宿と同じ静岡県の中部地方岡部宿に、ちょっと興味深い魔除け菓子があったのです。
その魔除け菓子は
白い糸に、小さなお団子を通して、数珠のようにしたものです。
その由来が凄まじい。
病に伏す寺の御住職を、小僧さんが看病していくうちに、小僧さんが鬼に変化してしまうのです。
なぜ看病するだけで鬼になってしまったかというのは、ここでは、はばかられるので記しませんが、例えていうならば、上田秋成の世界に近いものがあります。
その鬼になった小僧さんは、仏教説話的に成敗されてしまって、哀れ十個のお団子になってしまったのでありました……という展開です。
小僧さんは悪くないんですよ。
悪くないのに、鬼になってしまう。
ほの暗くて湿っていておどろおどろしくて、哀れな人間の姿です。
にしましても、この伝承にインスパイアされて、魔除け菓子怪異譚が書きたくなってきました。
横道にそれました。
棚を眺めているうちに、目が慣れてきます。
そして、目が慣れてくるにつて、あれもこれもどれも、欲しくなってきます。
危険な兆候です。
これは、そろそろおいとまの時間です。
本探しの逍遥の途中で、落し穴に落ちたり、ワナに引っかからないうちに、帰ることにいたしましょう。
その日は大人しく帰りましたが、あれ、何か忘れたような気が。
後ろ髪を一本、置いてきてしまったみたいです。
じき取りに行かなければなりませんね。
<書肆 田園りぶらりあ>
最寄駅 東横線・東急目黒線「田園調布」駅
田園調布駅から徒歩約4分
<今日買った本>
『古地図・道中図で辿る 東海道中膝栗毛の旅』
源草社・流星社・人文社編集部 文・DTP・企画・編集
人文社発行
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