本を買いに行きました
美木間
一箇所目 小田原文学館 小田原
旧東海道の箱根口でバスを降りると、ふっと鼻先を、潮の香を含んだ風が通り過ぎました。
小田原は、小田原北条氏の繁栄、東海道の宿場町の賑わい、 明治の政財界人に醸成された
小田原城は、小田原の繁栄の基盤を作ったとされる戦国大名北条早雲が築城しました。現代も早雲、氏綱、氏康、氏政、氏直の北条五代祭りが開催され、地元に親しまれています。
また、千利休とその高弟
明治以降に政財界の富裕層が保養地として邸宅を構え、庭園を造成し、
それぞれ
明治の小説家にして評論家で小田原へ保養にきた斎藤
以前、訪れた時は、小田原城はリニューアル前でした。
ゆるやかな坂をまわりこむように登り、小田原城を仰いで、その日は城へは入らずに、南へ向かって坂道を降りていきました。
城をとりまくゆったりとした空間。
海に面しているというのは、こんなにも気持ちを拓かせてくれるものなのだな、と感じました。
今日は、新しくなった小田原城へ、帰りに立ち寄るのもいいかもしれません。
城址公園内には、城以外にも、歴史見分館、郷土文化館、SAMUIRAI館と、見どころも多く、甲冑着付け体験もあるとのこと。
武将か、姫か、忍者になって、歴史を体感するもよし。
ただし、全て回るには、時間と健脚が必須とあらば、やはり、日を改めた方がよいかもしれません。
そんなことを考えながら、小田原の城下町、宿場町としてのなりわいを垣間見ることのできる街かど博物館の点在する旧東海道をぶらぶらと、箱根口信号を左に曲がりそのまままっすぐ進んでいくと、本日の目的地、小田原文学館へと続く桜並木が右手に現れます。
閑静なかつての武家屋敷街を抜けていく
桜の時期に訪れたら、正しく春爛漫の馬車道でしょう。
花霞にけぶるアーチを、束髪マガレイトに洋装の御令嬢が、馬車で通り過ぎていきます。
幅広のリボンが風になびき、髪に頬に肩に、桜吹雪が舞い散ります。
そんな光景が、よぎりました。
しばし歩いて、さて、到着。
小田原文学館は、土佐藩郷士で、明治維新後に元宮内大臣を務めた田中
三階建ての洋館は、スペインから輸入したという瓦が使われ、庭園に面した南側に張り出したサンルームと、三階のベランダが、昭和モダニズム建築らしさをよく表しています。
邸宅であるだけに、ドアを開けるとつい、お邪魔します、と言いたくなります。
受付を済ませ脇を見ると、ありました。
地元発の文学散歩地図、そして文学散歩の本。
小田原ゆかりの作家や文学作品の魅力を、広く紹介している市民グループの発行した本です。
さすが地元発の内容で、文学コースの紹介も詳細に記されています。
小田原出身で物置小屋で執筆活動をしたことで知られる川崎長太郎の文学碑のある早川駅からのコース。
私小説に優れた芥川賞作家尾崎一雄の文学碑やゆかりの場所があり、太宰治の『斜陽』ゆかりの家がある下曽我駅からのコース、国府津駅からのコース。
薪を背負って本を読みながら歩く像で知られた二宮金次郎生誕の地小田原ということで建てられた報徳二宮神社のある小田原駅東口からのコース。
近代文学の黎明期に日本浪漫主義の雑誌「文学界」を創設した詩と思想の文学者北村透谷ゆかりの場所、早逝が惜しまれる独特な作風の牧野信一の文学碑や、明治のベストセラー恋愛グルメ小説『食道楽』の作者村井弦斎の住まいや、小田原文学館のある西海子通りを含む小田原駅西口からのコース。
ここでしか買えない一冊です。
本と地図、いずれも求めて、室内の展示の見学へ。
小田原出身の文学者 北村透谷 牧野信一 尾崎一雄 川崎長太郎 北原武夫など。
小田原ゆかりの文学者 谷崎潤一郎 三好達治 坂口安吾 北條秀士 岸田國士など。
見学していくうちに、小田原は、多彩な作家陣に愛された町だということがわかります。
三階のベランダへ出て眺めると、相模湾がきらめいています。
心なしか、潮の香りが風に運ばれてきます。
室内にもどり、応接室のソファに腰掛けると、ティーセットが並べられていました。
洋梨のような形のティーポットを掲げた、着物に前掛けの娘さんは、行儀見習いでしょうか。
ポットから注がれる紅茶のほとばしりに、目をしばたたくと、娘さんは消えていました。
薔薇色のティーセットごと。
日が傾き始めていました。
少し先を急ぎます。
玄関を出て裏手に回ると、花咲く庭園に、昭和十二年建築のスパニッシュ様式の館の全貌が現れます。
陽射しの加減を捉えて、ひとしきりシャッターを押してから、別館へ向かいます。
道筋に、尾崎一雄の移築された書斎があります。
靴を脱いで、中へあがって、見学ができます。
和洋折衷の回遊式の庭園を歩いていくと、現在は白秋童謡館になっている大正十三年建築の純和風建築が現れます。
詩人北原白秋は、小田原で童謡を数多く創作しています。
天神山の伝肇寺の境内に洋館を建て、そこで童謡作詩家として活躍しました。
赤い鳥小鳥
みなさんも、きっと、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
一渡り見終えて、庭園にもどってくると、西にかなり傾いた陽射しに、昭和の洋館がやさしく包まれていました。
咲く花の違う季節にも、また、訪れてみよう。
そう思わせる、佇まいでした。
日本の洋館が好きです。
どことなく瀟洒なつくりなのが、木と紙の日本家屋を、脅かさないような気がするのです。
それでは、小田原文学について記された本を抱えて、そろそろ帰路につきましょう。
<小田原文学館>
最寄駅 JR「小田原」駅
小田原市のサイト内、公共施設>図書館/博物館/文化施設に案内があります。
<今日買った本>
『小田原文学散歩 郷土で見つけた文学の香り ―明治から平成まで―』
田中美代子著
小田原の文学に光と風を送る会発行
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます