第12話 旗を掲げよ冒険団!
「ん?ティアさん?」
息を切らして遠方から駆けてきたティアが2人を呼び止めた。様子を見るからに重大な話があるようだ。
「忘れてたんですけど、アルさんがソロじゃなくなったので冒険団として登録してもらわないといけないのでギルドに同行してください!」
「うぇ、めんどくせぇ。」
「アル、ダメだよ?決まりは守らなきゃ。」
「流石スキュアさん!じゃあさっそく行きましょう!」
「うん。分かったから降ろしてくれない?」
♢
「先程言った通り、お2人には冒険団として登録して頂きます。まずは団名を考えることからですね!」
「そう言われても……浮かばねぇ。スキュア、なんかある?」
「そうだね……鈍色の英剣…とか?」
「おお!すげーいいけど……なんで?」
アルに褒められてか頬を赤く染めながらスキュアはあの日、自分を救けてくれた姿を思い出す。鈍く輝いて見えた二振りの剣を携え、鬼のような気迫で敵に飛びかかる
「……かっこいいから。何よりも…。」
「ふふーん?そうですよね!カッコいいですね…ってことでそれで決まりで!やった~定時で帰れる!」
「…まぁいいか。団長はスキュアな。任せたぞ。」
「……うん。いいよ。」
何とも適当な旗揚げとなった鈍色の英剣団であったが今後、様々な依頼や事件をこなしていくその冒険団は世界へ名を売っていくことになるのだった。
「あ、そうだ。俺武器屋に行かないと。スキュア、いい所知ってるか?」
「武器……?それならいい所がある。。着いてきて。」
アルは現在、心許ない出来の剣を使っている。以前剣を奪われ木刀は片方は真っ二つにへし折れてしまい現在は黒焦げの木刀一振りしかないことを思い出す。ちなみにその木刀はスキュアが保管している。
スキュアに手を引かれ裏路地から裏路地へ、かなり入り組んだ通りを誘導されながら、アルは少しだけ懸念する。
「なぁ、その武器屋は腕の方はどうなんだ?」
「ん、腕だけなら国一番なのは間違いないよ。売ってくれるかは別だけど。」
スキュアの言葉に不安になってきたアルだったがそんなアルを待ってはくれず目的地へとたどり着く。
「着いたよ。」
「お、おおぅ……こりゃ何とも…」
吹けば飛びそうなほどオンボロな平屋建て。斜めった看板には”アームズ武器工房”と書かれていた。
「大丈夫。ボロいのは外だけだから。」
中に入れば弾けるような鉄の匂いと鉄同士がぶつかり合う甲高い音が空間を埋め尽くしていた。
「おじさん。お客さんだよ。」
「んん?スキュアか!どうした?また剣でも焦がしたか?」
「違う。今日は彼がお客さん。」
スキュアと親しそうに話す中年男性はかなりの大柄でスキュアの倍近く身長があり腕も丸太のように太い。鷹のように鋭い眼光で品定めするようにアルを睨みつける。
「ほぅほぅ……」
「な、なんだよ。男なんかジロジロ見ても面白くねぇだろ?」
「はははっ!いやすまんな!それよりお前さん、随分と自分を痛めつけてるな。普通…いや普通じゃなくてもお前さん程は出来んだろう。何でそこまでするんだ?」
「……昔、友達と約束したんだよ。必ず救けるって。それだけさ。」
男性は目を丸くした後、大きな口を開けて一頻り笑うと工房の奥に引っ込んだ。数分後、一振りの剣を片手にアルの目の前まで歩み寄った。
「これなんてどうだ?我が家の秘伝武器で、カタナって武器だ。お前さんなら使いこなせると思うんだが。」
アルはカタナを受け取ると鞘から抜きその刀身を眼前に晒す。通常の両刃剣とは違い、片刃であり反っている刀身は厚く重量感がある。それでいて手に馴染む柄作りにアルは感心を見せる。
「…うん。少し重いけどいい武器だ。見たことない造りだし慣れが必要そうだけどこんなすげぇのは見たこともねぇよ。」
「がっはっはっは!!そうだろ、そうだろ!そいつは斬れ味と硬さに突出した武器でなぁ。扱いづらいがそこはお前さんの腕だな!ちょいと試し斬りしてみろ!」
「じゃあ遠慮なく……」
アルは近くにあった藁の人形を見つけると、集中を高め袈裟に切り抜いた。音すらも置き去りにするかのようなその斬撃は視認すらままならない程。モーションは決して小さいわけでもない。しかし隙などは存在しない。そんな魔法のような斬撃は回避など不可能だと思わせる。
その証拠に藁の人形は繋がったままだ。速く、鮮やかな切り口故に斬られた後も断面がピタリと合わさり微動だにしない。これが生物であっても斬られたことに気が付かないだろう。それ程の一撃だった。
「ゲホッ!?ぐぁぁあ!?…クソ、身体が軋むな。やっぱり全力で振るんじゃ無かったか……。」
「…………なぁ、お前さん名前なんて言うんだ?」
「アルゼーレ=シュナイザーだ。アルって呼んでくれ。」
「俺はギル=アームズだ。いいもん見せてもらった礼だ。そいつはお前にやろう。そいつの硬度とお前さんの腕ならまずないとは思うが刃毀れや折れちまったら持ってきな。速攻で直してやっからよ!」
ギルが誰かに名を尋ねる時は相手を認めた時だけだ。ギルは辛うじて見えた剣閃に思わず鳥肌が立った。カタナが描く美しい軌道に目を奪われる。もしこれが彼自身に振るわれたとしてもその美しさに見惚れて避けることを忘れてしまうだろう。
アルがこれまで幾度となく剣を振り続けてきた事でその身体は”剣を振る”と言う一点に於いてこれ以上なく最適化されていた。それは速筋や遅筋などの比率、呼吸の仕方から放つタイミングまで文句のつけようがない。
筋力ステータスとは別でありスキル欄にも記載されないものだがどんな高レベルの剣士よりも洗練されていた。
「ありがたいけど…これだけの武器貰っちゃっていいのか?」
「おうよ!将来の英雄の愛刀だからな。そりゃあ並大抵の武器じゃいけねぇや。」
「英雄って……俺はそんなのにはなれないしなる気もないよ。俺は約束を果たすまでさ。」
アルは自身の力に気づいていないからこそ自分を低く評価する。常に卑下されていた過去がある故に仕方ない事だが能力値こそ低いものの彼の強さはBランクに比肩する程だ。
アルはBランクの相手となら多数であろうとも互角以上に戦える稀有な能力を持つ。しかし今のアルではAランクの相手には一歩及ばないだろう。とはいえ飛躍的な成長を見せたのも確かだ。
やはりきっかけで言えば人造人間との乱戦であろう。あの戦いでアルは欠片も無かった才能の壁を壊した。
身を滅ぼす程の努力はアルを裏切りはしなかった。彼の極めて濃密な経験は確かにアルの中で殻を砕こうと必死に叩いていたのだ。。それが一つのきっかけで破り捨てただけのことだ。偶然でもまぐれでもないアルの実力だった。
「おじさん、ありがとね。また来る。」
「じゃあなオヤっさん!大切に使うよ!」
「……ああ!お前はまだまだ強くなる!それに見合う戦士になるんだぞ!」
ギルから見てもアルには才能というものは見つけられなかった。しかしアルが一刀を放った途端に一瞬だけではあるが磨きあげた宝石のように輝いて見えた。
「…ソレを自在に使えるようになれば…お前は瞬きの間、閃光になれる。」
2人が見えなくなってからギルはそう呟いた。いつかアルが英雄になることを確信しながら──。
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