高校生のラーメン屋計画
風人
プロローグ
小学生の時、初めて商店街で迷子になった。
当時引越して来たばかりの俺は、商店街に買い物をしに来て逸れたのだ。
初めて来た見知らぬ土地と人混みに恐怖を抱きながら、俺は商店街の片隅で蹲って両親が来るのを待っていた。
そんな時だった。
「おい、坊主。迷子か?ちょっとこっち来い探してやるよ」
知らないおじさんが声をかけて来た。
当時の俺は護身術を習っていたので、別に誘拐されても何とか出来ると思っていた。
…いや、違うな。多分誰でも良いから構って欲しかった。寂しさを埋めて欲しかった。だからついて行った。
✳︎
連れて来られた先は、商店街の隅に佇む一件のラーメン屋だった。
外観は少し汚かったが、それなりに繁盛しているようで人外待ちの椅子に何人か人が座っていた。
「入れ」
そう言われて扉を潜ると、ベルの音とラーメンの香りが同時に俺を刺激した。
おじさんは「そこに座ってろ」と言い、俺をカウンターの椅子に上げて厨房に入って行った。
5分位しておじさんが戻って来た。
「お前の親を探してやる代わりにこれを食え」
そう言って差し出して来たのは、子供用の丼に入った一杯の豚骨ラーメンだった。
「新作だ」
そう言って俺に割り箸を差し出して来た。
時は夕暮れ、小学生もお腹が空く頃で俺は目の前に置かれたラーメンを食べた。
「どうだ?自信作だ。ラードとチャーシューを変えて見たんだが変じゃないか?」
当時の俺は、このおじさんが言っている事の半分も分からなかったが、それでも返す言葉は持っていた。
「おいしい」
そう言った時のおじさんの笑顔と、ラーメンの旨さから、俺はいつの間にか寂しさが消えていた。
✳︎
その後、ラーメン屋の向かいにある交番に行ったら母が待っていた。
母はおじさんに礼を言って俺を連れて帰ろうとした。だから俺はおじさんに向けて叫んだ。
「おじさん。今日はありがとうございました」
そんな俺に、暖かい笑顔を向けて来たおじさんを、今もまだはっきりと覚えている。
それが始まりだった。
その3日後おじさんは交通事故でこの世を去った。
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