第74話 霧の向こうがわ─Hold me now─


「カズマさ~ん! し 死んじゃうかと思ったぁぁぁぁ! えーん!」


起きて早々カズマに飛びつくウィズ。

そして、そんなことに寛容ではないひとが約一名。めぐみんだ。


「…コラ。メスアンデッド。 いい度胸じゃねーか? うちのダーリンに何するっちゃ。」

「えぇっ?! 鬼娘っ? なんで知ってんの?!」

「詳しくは近況ノートの最初のほう、読んでくださいな。……離れろメス牛め。」

「もはやアンデッドですらない?!」

「ちっ…作者め…こんな台詞吐かせやがって…。」

「と、とにかくウィズ? なんで独りで居たんだ? 他のみんなは? バニルとターニャさんは? ってか、魔王軍は? あの霧はなんなんだ? わかんないことだらけだ。」


いまだガルガル言ってるめぐみんに怯えながら、すんすんとすすり泣いていたウィズは、少しずつ経緯を話した。



***



「……というわけでした。」

「なるほど。わからん。」

「とにかく、私が囮になって、その間にバニルさんがみんなを魔界に避難させているはずです。私はいざとなったら、カズマさんのところにテレポートで脱出するつもりだったんですよー。」

「あの霧はなんなんだ? 魚が喰われてたけど……」

「私にもわかんないですね。いきなり現れて魔王軍を食べ尽くしてから、街を飲み込み始めたんです。逃げるのが精いっぱいでした。バニルさんもわからないって言ってましたね。」

「うーん…。とりあえず、俺たちも魔界に行ってバニルたちと合流して、この先の動きを決めようぜ。」

「そうですね。少し情報を整理しないと…。」


そしてカズマ一行も、魔界へ行くことになった。



***



悪魔城にはすんなりと移動することが出来た。

サタンの御触れで今やもう、魔界でカズマたちを知らぬ者はいなかったからだ。

下級魔族から地獄の獄卒に至るまで、何者もが、カズマたち一行を手厚く迎え入れた。


アクセルでの地獄絵図が嘘のように、悪魔城内はすっかり落ち着いた雰囲気が漂っていた。

以前、初めて訪れた時の禍々まがまがしさはどこへやら。

今はあののどかなアクセルの空気すら感じられるほどになっている。

広間に入ると、バニルとミツルギが迎えてくれた。


「戻ったか。」

「あぁ。悪かったな。」


カズマとバニルは、互いに口元だけで笑ってそれだけを言うと、踵を返して肩を並べて歩き始めた。


それ以上に言葉はいらない。

互いをねぎらう言葉も、安否を確認することも、二人には必要ではなかった。

交わした短い言葉だけで充分に理解出来るからだ。

ただ、互いに、出来る限りのことをやって来た自信と信頼があるから、そんな少ない言葉のやり取りだけで分かりあえる。

盟友とはそんなものなんだろう。

めぐみんは、そんな二人の背中に感動すら覚えて、軽く泣きそうになった。


なんで男の子は、こんな短い間にどんどん大きくなっていくんでしょうね?

本当に、目が離せない。


隣をふと見ると、ダクネスも顔を赤らめてカズマを見ていた。

きっと、同じことを考えていたんだろうなと、少し可笑しくなってダクネスに抱きついた。


「わゎっ、めぐみんなんだ突然?!」


焦りながらも、ちゃんと抱き留めてくれるダクネス。

めぐみんは、意地悪げに笑いながらぎゅっと彼女を抱きしめ、言ってやった。


「ううん。大好きですよ? ダクネス。」


真っ赤な顔で首をかしげ、めぐみんに抱きつかれながら、カズマの後ろを歩くダクネス。


きゅっと強く抱きしめ返してくれたのが、めぐみんはとても心地よかった。

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