第32話 お買いもの



「さて。買い物行こうぜ。仕度してくれ。」



朝からお風呂に入ってさっぱりしたら、泣き腫らした顔も幾分かマシになった。

台所で朝食の片付けをしてたら背中から声をかけられた。


「昼メシは外で食べよう。

いろいろ回るけど、なんか欲しいもんあるか?」


えー

ゆっくりあなたとゴロゴロしたかったのにー


「あなたが欲しいです。私はそれ以外何も要りませんよ?」


「ぎゃふん。」


本当なのに。もぅ

ずっと一日中独りじめしたいのに。



「何処に行くんですか?」


「武器防具の鍛冶屋のおっさんのとこと薬屋と銀行と…メインはウィズんとこだな。」


ウィズ?

じゃぁ私の身体のこと…聞いてみよう。


「分かりました。軽装で手ぶらでいいですよね?」


杖は置いてっていいかな?


そう言えば私、最近爆裂してない?!

ずっと満たされてるから…?


それにしても凄い‼



「あぁ。手ぶらでいいぜ。俺の手だけ握っててくれたら嬉しいけどな。」


――デレた!可愛い‼


「喜んで。旦那様。」



****************



いい天気。


久しぶりに朝のアクセルを歩いてる。


カズマは私の右手をとって

右手にはリュックを背負っている。


こうして二人で買い物に出かけるなんて初めてじゃないかな?

結婚してからも初めての外出になる。


――デートみたいで嬉しいな。



まぁ結婚前もデートなんてしたことないけど。

男性とつき合ったこともないので、なんだかうきうきしてる。


そんなこと考えながらにやにやと歩いてたら


「な なんかデートしてるみたいで恥ずかしいよな? 手…離そうか?」


なんて言ってくる。

なんでよー?嬉しいのに。


「嫌・で・す・よっと」


「わっ?!恥ずかしいってば!離せこら‼」


左手に絡みついてやった。

腕組みくらいさせてよ。ふん。



「おっ!新婚さん‼あんま見せつけんなよこの野郎?!」


「カズマ‼熱いね~こんちくしょー!」


街の人たちからひゅーひゅーと冷やかされる。カズマは真っ赤な顔で大変そう。 知らないもん。


今までこうしたくてたまんなかったんだもん。ずっと我慢してたんだから。


「そろそろ着くから…離してくんねーかな?奥さま?」


「やです。このまま行くの。」



―薬屋に到着。

ここではカズマはわりとたくさんの解毒と回復ポーションを購入した。

どうするんだろう?

さすがに持ち帰りは無理なので、お金だけ払って屋敷に届けてもらうことにした。



次は銀行。



カズマの姿が見えたとたん

全行員が総立ちして

「「「いらっしゃいませ!」」」

と最敬礼。


気持ちいいー♪


カズマはさすがに慣れてるようで、行員たちをまったく見ることなく、手だけで応えると、真っ直ぐ支店長の元へ。


「いらっしゃいませサトウカズマ様。

どうぞこちらにおかけ下さいませ。

奥様もどうぞこちらに。」


とふっかふかのソファを勧める。


気持ちいいー♪

何?カズマ凄い格好いいんですけど!

奥様だって…ふふふ。



そして支店長は、気持ち悪いほどの微笑みを浮かべカズマに聞く。


「サトウカズマ様。本日は当行にどのような御用件で?私どもにお役に立てますことは何なりとお申し付け下さいませ。」


カズマは無表情でどえらいことを口にした。


「あぁ。今日は、仕事で使う新しい口座を開いて欲しいんだ。

そうだな。名義は…[工房 一真庵]で頼む。

そこに今日中に200億ほど預けるから出来るだけ速い対応を頼むよ。」


「にっ200億?! ですか…?!」


200億エリス?!

何?そんな大金事も無げに何言ってるの?!



「あぁ。200億エリスだ。

それとは別にもうひとつ口座を作って欲しい。名義は[サトウめあねす]で頼む。そこには王国国立銀行で預かって貰ってる俺の名義口座から1000億エリスほど移動させて、名義カードを一枚作っておいてくれ。」


「いっ1,000億?!ですか?!…」


「あぁ。出来ないか?

なら王国国立銀行に頼むだけだけど…?」


「いえいえ!カズマ様‼

誠心誠意!私どもの威信と誇りにかけましても!御世話させていただきますので何とぞ!当行をごひいきに御愛顧賜りますよう宜しくお願い申し上げます!」


「いいよ。速く対応してくれりゃそれで。ビジネスは速さが鍵なんだ。

支店長も解るだろ?」


「もっともにございます。当行。対応の速さは国立銀行にもまったく後れは取りません。ご安心して顧客様の大切な資産を御預けいただけますよう、日々研鑽と精進致しております。どうか当行にお任せ下さいませ。」


何?ほんっと凄いカズマ!

何者ですか?!私の旦那様は?

凄い。本当凄い格好いい‼

泣けてきちゃうくらい。


お父さんに見せてあげたいわ…?!



「支店長ありがとう。これからも宜しく頼む。

お礼にここの商品をいくつか買わせて貰うよ。見せてくれるかな?」


「もったいないお言葉にございますカズマ様。

当行に多大なる預貯金をいただき、その上まだ私どもの商品までお買い上げいただけるなんて……

私…御先祖様や父母に…やっとご恩返しが…。

…いえいえ申し訳ございません。

それではお手続きの間、当行自慢の商品をいくつかご紹介させていただきます。

君!すぐに保険商品をお持ちして!

あと奥様に何か甘いものをお持ちしなさい‼

奥様?大変貴重なお時間を戴いて申し訳ございません。今しばらくご辛抱賜りますようお願いいたします。」


へっ?私?

あっ?!私だ‼


「どうかお気遣いなさらずに。支店長様。

私も初めて夫の仕事の姿を拝見しておりますので、楽しんでおりますよ?大丈夫です。」


とにっこり営業スマイル。



「もったいないお言葉にございます奥様。大変失礼致しました。

今後奥様におかれましても、当行に御用がございましたら、この私に直接何なりとお申し付け下さいませ。行員すべてにカズマ様ならびに奥様の御尊顔は周知徹底させまして、誠心誠意対応させていただきますので、変わらぬ御愛顧を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。」


うわー。凄い手厚い扱いだ。

こんな小娘に…


大丈夫かな?!

カズマの足手まといになってないかな?

カズマを落とすようなことしてないかな…?


私がガチガチ緊張していると

カズマが


「ごめんなこんなとこ。慣れないよな?先にウィズんとこに送ってりゃよかったな…。」


と。

私は首をふり


「私は旦那様の格好いいとこが見れて嬉しいですよ?私もあなたの足手まといにならないようにいろいろ学ばなきゃ。」


「はは。ありがとな。奥様。」



このひとはこうやってどんどん大きくなって行くんだろうな。


こんな大きなひとに釣り合う女になれるのかなぁ。

いやいや。頑張る。

私は家になるんだ!


このひとがこうやって戦って傷ついて疲れた身と心を、安心して癒してあげられる様な。

真っ直ぐにこのひとが帰ってこれるホームに。


それがこのひとの望み。

私の一番の望みだから。


「それでは私ども自慢の商品をご紹介させていただきます。――――」



****************



結局

幾つかの保険商品を購入……

って言っても一口月額5万エリスもするような保険をありったけよ?!

それも、全部受取人名義は私かめあねす。

びっくりするわこのひと。


カズマ曰く。


「お金ってさ。使い時と使いどころってのが大事なんだ。

さっきがその使いどころ。

あれであの銀行はもぅ俺に頭は上がらないどころか、会社設立の資金提供や、運営資金提供や、たとえ俺が亡くなってもめあねすの代までもちゃんと忠誠を誓ってくれるよ。

わざわざ国立銀行から地方銀行に多額の預金を移動したからね。

あの支店長もあそこの行員も明日から大出世さ。

だから俺には絶対の忠義を払ってくれる。人情にも訴えなきゃひとを心底動かすことは出来ないもんさ。

俺はそれを知ってるからな。」


と。


本当。このひとの才能の底がまったく知れない。

あの女神エリスをもって「絶対敵に回したくない」と言わしめたのも頷ける。


どんどん惚れてしまうんですけど…

私…大丈夫ですかね?


彼が居なくなったらどうなるの私?!


そう考えるだけでもぅ涙でいっぱいになる。ダメだ。私。


そんなこと考えて泣いてる私を不思議そうに見て


「どした?!何かあったのか?!」


と。

私は涙を拭いながら


「冗談でもなんでもなく、あなたをどんどん好きになって行くのが怖くて…」


と彼の手にしがみついた。

カズマは笑って


「なんだ。よかった。

そんならじゃんじゃん惚れ直してくれよ。

お前がメロメロになるように頑張るからさ。」


頑張んなくていい!

もぅゆるして‼


「もぅメロメロです。死んじゃう。」


カズマは嬉しそうに笑った。



****************



次は鍛冶屋へ来た。



「おっちゃーん。新しい刀頼みに来たぜー。」


「おっ カズマじゃねーか!新婚さんだな?おめでとさん。

まぁまぁかっわいい嫁さん掴まえやがってこの野郎!」


「へへ。可愛いだろー?…っておっちゃんも知ってるだろ?うちのパーティのめぐみん。」


可愛い可愛い二人して…もぅ。

はー熱い‼


「へっ? めぐみん? めぐみんってお前んとこの爆裂娘? あの頭のおかし…」


「私の頭になんか文句あるんなら表で聞こうじゃないか?!」


「ほんとだ……めぐみんだ…魔道士のローブとトンガリ帽子被ってないからわからなかったぜ……」


「失礼ですね?!このおっさん?!」


「まぁまぁめぐみん。

んでおっちゃん。頼みってのは、前に造って貰ったあの日本刀をな?改良したいんだ。もっと軽くもっとスマートにさ。小さな身体の女の子でも振り回しやすいようにとびきり軽く。おっちゃんミスリル…使えるか?」


「おっ。相変わらず腕が鳴る注文しやがるじゃねーかこの小僧が。

当たり前じゃねーかこんちくしょーめ。何年武器防具鍛えてると思ってんだ?!

王都に行っても俺以上の鍛冶屋は居ないぜ?よし。請け負った。

任しときな。この俺が世界一の業物を鍛えてやろう。」


「よし。頼むわおっちゃん。

ついでに魔法属性も付けといてくれたら助かる。」


「いいぞ。どの属性にする?」


「聖属性で頼むわ。うんと強力なやつ。」


「了解した。ミスリル銀ならいい組み合わせだ。強力な追加効果が期待出来るぞ。」


「うはっ。楽しみだなー。」


「あぁカズマ? 名はどうする?」


「あぁ。もぅ決めてあるんだ。

ちゅんちゅん丸…って言いたいところだけどな?」


カズマがちらっと私を見る。

何よ。いい名前じゃない。


「聖刀 グレイスだ。

俺の国で[三人の美女神]って意味があるんだよ。」


―――カズマ?!……


「へぇ。いい名じゃねーか。よし。刀身に刻もう。刀束にはどうする?なんか言葉入れるか?」


「へへ。それも考えてあるよ。

刀束には、

[最愛の愛娘へ。父と三人の母から変わらぬ愛と祝福を込めて。]と入れといてくれ。」


――カズマ!………それって…


カズマが驚く私をちらっと見て笑う。


「そうだよめぐみん。お前らのことさ。

その刀は、あの子を、めあねすをずっとずっと護り続けるんだ。」




なんてこと……


あなたはどれだけ……!



「そしてグレイスには本来の言葉の意味があるんだ。それは、

俺の居た世界の言葉で[Grace]

俺の国日本語に訳すと[恵]

そう。

お前の名前だ。めぐみん。」



私は口に手をあて嗚咽するのを堪える。


――あなたはどれだけ……


…どれほどまでに私たちを愛してくれているか!……


小さな私が嫌になるほどに

カズマは私たちを一秒たりとも忘れることなく想い考えてくれて


一秒足りとも無駄にせず最大の愛で返してくれる………



なんてひとですかあなたは‼……



言葉が追いつかない。


どうすればあなたにこの想いをすべて伝えられるの?


助けて‼


愛おしくて愛おしくてどうにかなりそう……。



「気に入ったか?」


カズマは嬉しそうに聞いてくる


私は胸に手をあて苦しそうに答える。


「…もぅ……もぅ…勘弁してください……ゆるして?……あ…あなたを好き過ぎて……もぅ…胸が苦しくて…もぅ……たまらないです…。

カズマ?……愛しています…心から……頭の先から爪の先までもぅ……メロメロです…。」


カズマはさも嬉しそうに


「ありがとな。まだまだこんなもんじゃ許してやらないからな。」


とウィンクした。



きゅぅぅ。


このひとは……まったく……。



****************







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