第31話 Walking slow



その夜

カズマはたくさんのことを話してくれた。


ニホンのこと、子供の頃の思い出、学校のこと、お父様お母様のこと、…初…恋の女の子のこと。


ベッドに寝転んで

私の髪をすきながらゆっくりゆっくりと話してくれた。


それはカズマが自分を確認してるようにも見えた。


温かな彼の腕の中で、頷いたり笑ったり、時には怒ったりしながら聞いていた私は、そんなカズマがどこか変に思えていた。


何かに迷ってるみたいな…何かを決めかねている様な…。


―不安なことが何かあるの…?

…気のせい?


笑ってるカズマを見ていたら

酷く不安が募ってくる。


胸が苦しくなって

思いきって聞いてみた。


「ねぇカズマ。大丈夫ですよね?

独りで何処にも行ったりしませんよね?危ないことしないですよね?」


カズマの手が止まる。


彼は大きくため息をつき


「やっぱお前にゃバレちまうか…。

ほんと、いい嫁さんだよまったく。」


何?!

何言ってるの?!

嫌よ?!


「……何かあるんですか…?

エリスが来たことと関係が…?」


カズマは慈しむような優しい笑顔で言う。


「そうだよ。その通りだ。

俺はこれからそのために独りで行かなきゃいけないとこがある。」


え?

何?

なんでそんな顔するの…?


「…何処にです? 危なくないのですか…?」


カズマは私の頬を撫でながら


「危ないよ。五体無事では帰れないかもしれない。アクアにもエリスにもそれは言ってない。」


私は堪らず叫ぶ


「嫌‼ やだ‼

なんでカズマばっかり?!

なんでカズマばっかりそんなこと……なんで…そんな想いをしなきゃいけないの?!」


カズマは私の涙を拭って


「俺がやらなきゃいけないからだよ。誰にも出来ない。俺にしか。

俺にはその義務も責任もある。

さっきお前に話した通りだよ。

俺には何もなかったんだ。

日本で俺は何もしてなかった。

ただの貧弱で脆いニートだった。

でももう今は違う。

アクアが選んでくれた。俺が選んだ。

この世界は俺を選んでくれたんだ。

そしてここで俺はいろんなかけがえのない宝物をたくさん手に入れた。

お前やダクネス。俺を支えてくれるみんなだ。

俺はそれを護りたい。

いや、絶対に護る。

それは俺の責任なんだ。」


ぐしゃぐしゃに嗚咽しながらカズマにすがる


「なんで?…

なんであなたが…あなた独りで……背負うの…?

…私は…あなたの妻です。

連れて行って……私も… 連れて行ってください…」


「だめだ。それは絶対に譲れない。」


「なんで?! ………なんで‼

………なんでですか…?!

私じゃ……

私じゃぁ役に立ちませんか…?!」


「立つさ。でも、だめだ。

……お前と同じ想いだと思うぜ?


…俺は、お前を、危険な目に遇わせたくない。一分一秒たりとも恐い想いをさせたくない。

それだけだ。」


もぅ……もぅ……もぅ‼


「カズマが居ないほうが恐いよ‼

なんでわかんないの?! あなたが私の見えないとこで恐い想いをするほうが私はずっと恐いんだよ‼


……なんでわかんないの?!ねぇ‼

恐いよ‼苦しくて死んじゃいそうなくらい恐いんだよ‼

あなたは……あなたは…

私のすべてなのに………」


「……だから言わないつもりだったんだけどな…。」


カズマがしゃくりあげて泣いている私の頭を両腕で抱きしめ、何度も頭を撫でた。

そして


「なぁめぐみん。

不思議なもんだと思わないか…?

ひとの縁って。


日本に居たときは考えたこともなかったなぁ…。


いつ、誰に、どう出逢うのかなんて……そりゃ偶然の産物なのかもしれないけどな。

俺は…

そのひとそのひとそれぞれ、運命がある程度決まってて、分かれ道を選ぶ度に縁は、現れたり消えてしまったりするもんだと思うんだ。


どの道が正解なんてなくて、そのひとが歩いた道が、出逢って来たひとがそのひとの正解なんだと思う。


ただ、それを正解だと思えるかどうかなんだ。


俺は今。

正解だと想ってるよ。


アクアに出逢って、この世界に来て、お前に出逢って、ダクネスに出逢って、みんなに出逢って、世界を救って、めあねすを授かって、こんな俺にはもったいないほどの綺麗な嫁さん掴まえて…。


それでいよいよ最期の時、死ぬ間際にさ。

あぁ俺は何も思い残すことはない。俺は本物を生きたんだって思いたい。


その為の、これが俺の選んだ本物なんだ。本物のサトウカズマが歩く道なんだ。


わかれとは言えない。

俺がお前なら同じように引き留めるだろうからな。


だから、信じててくれ。


お前の選んだ男は本物なんだって信じてくれ。


そして

お前には、俺の家になってほしい。


どんなに離れたところで戦ってても、疲れて擦りきれてフラフラになっても、ちゃんと帰って来れる家に。


俺が真っ直ぐ迷わずに帰れる家に。

アクアやダクネスも、みんなが目指して帰れる家に。


俺たちみんなが一番帰りたい家に

めぐみんがなってほしいんだ。」



もぅ…莫迦カズマ………


「……バカ………ひっく……バカ……ひっ……バカ…………バカ……ひっく………バカ……っ……バカ……バカバカバカバカバカバカぁぁあっ……」



「あぁ。知ってるよ。」



「この歳で……ひっ……未亡人にし……っ……たら……ひっく……許さない……から。」



「あぁ。分かってるよ。必ず帰って来る。」



「帰って…来なかったら…っ…すぐもっと格好…いいやつに…ひっ……乗り換えるん…っ……だからね?」



「あぁいいよ。そのほうが絶対いい。」



「やだよ!否定してよバカ‼もぅ‼もぉぉお!」



「ミツルギに頼んどくさ。」



「いじわる!バカ‼

カズマしか見えないって言ってるでしょ?!バカ‼」



「知ってるよ。愛してるよ。めぐみん。」



「――――――――――――――」



カズマのバカ。泣き死にさせる気か?バカ


悔しいけど…


やっぱり私の旦那様は世界一格好いい。


必ず帰って来なさいね。私の元に。


あなたのホームに。



****************




泣き疲れて寝てしまっていた私は

彼の腕の中からこっそり抜け出し朝食を作った。


ひどい顔…。


台所にある鏡を覗いて愕然とした。


…目が無いじゃない…。


泣き腫れてお化けみたいだ。

手近のタオルで目を冷やしながら、フライパンを返して、パンケーキの出来上がりっと。


あとはガレットを作って完成。

ソースは甘めでいいだろう。


そうしてるとカズマが起きてきた。


「おはょ。めぐみん。朝メシか?

ってお前。ひっどい顔だぜ?! 大丈夫かよ?! 痛くねえのかそれ?」


「あっ、あなたのせいでしょ?! そんなはっきりと言わないでください‼ 女の子に向かってひっどい顔とか無い……」


キスでふさがれた。


「☆@¢$£%#♀……☆」



「可愛いぜ奥さん。世界一な。」

とウィンクされる。


腹立つ~


「も……も…も…もぉぉ……莫迦カズマ!さっさと顔洗って来なさい!」


顔が真っ赤っか。

どこで覚えたの?!あんなの?

悔しいぃ


…まさか初恋の女の子じゃないでしょうね?!

慣れてるようだったし……


なんか腹立つ‼悔しい‼



「奥さーん。タオル無いよーっ?顔洗ってるから持って来といてーっ。」


洗面所から声。

そうだ。私が目を冷やしてた。

見てなさい…。


カズマの後ろからそーっと近づいて…


一気にズボンとパンツをおろす。


「わっわっ?!何すんだこら?!」


慌てて振り向くカズマのカズマさんを……かぷっ


「おぉぉっ☆¢@♀$…」


しばらく顔を上下すると

起った♪ よし♪

私はすかさず自分のパンツも脱いで………ぁ……ん……



「っ?!……お前?!…何してんだこら?!……んっ…挿れてんじゃねーかよ?!」


顔中泡だらけのカズマが文句いってるけど知らないもん。

……んっ……後ろから…気持ちいい……


洗面台に手をかけてカズマにお尻を何度も打ちつける。


…ヤバい……意識が飛びそう……


次第にカズマも自分で動いてくれてる。

私の腰を掴み何度も何度も私の奥を抉る。


「……んっ……んっ……んっ…ぁん……ぁんっ……ぁん……ん……んっ…気持ち…いい?カズマ……んっ…私の中……ん…気持ちい……い?……ぁん……ぁん…んっ…ぁぁぁあ…いく…いく…いくぅ……ぁぁぁあ……」


はー気持ちいい……



「………タオル。」


カズマがぶっきらぼうに


「はい。旦那様。」


満面の笑顔でタオルを渡した。



****************



「レイプかよ?!」


カズマが口を尖らせる。

私はコールスローを口にしながら


「あなたが慣れてる風だからですよ。あー悔しいったら。」


「は?! 慣れてる風?ってなんだよ?」


はー。とぼけやがってこの野郎。


「キスで口塞ぐとか何だか手慣れてる風ですよねー旦那様。

やっぱりあの初恋のひととか初恋ひととか初恋ひととかなんですかねーなんて。」


「へっ?

お前まさか妬いてんのか? 初恋のひと?あの子とは何にもしてないぜ?」


まっ。しらばっくれましたか。


「いえいえ。妬いてなんかいませんよー旦那様。

キスが手慣れてキスが手慣れてキスが手慣れていらっしゃる風でしたからつい。」


「妬いてんじゃねーか。

慣れてねーよ。したこともねぇし。」


したこともないと来ましたかこのタラし野郎め。


「あら。巧く口を塞がれたのでちょっと悔しくて上の口と下の口であなたを塞いでみたんですけど?」


「お前絶対20超えてるよね?! 15歳の少女の言う台詞じゃないもの?!」


「じゃぁあなたはロリですね?!」


「ぎゃふん。」



もぅ…ほんとに悔しいのよ?

アクアはいいのよ。全然。

アクアあってのカズマだと思うもの。


でも

あなたが他のひとに心を動かして、その手でその口で他のひとに触れただなんて想ったらもぅ。

頭がどうにかなりそう。


私、やきもち妬いたことないんだけどな…


「まぁ許しましょう旦那様。

今後、あなたのその手と口は私とアクアとダクネスにだけ使うと約束してください。」


「いわれなくてもそうするよ?!」


どうだか…

私とちょっと離れたらウィズとかクリスとかに挿れてたり……きーっ!



「お前なんか恐ぇよ?心配すんなって。ほら。おいで。」


手招きするカズマに向かうと

膝の上に座らされ、背中からきゅっと抱きしめられた。



「好きです。奥さま。」


さてはうやむやにしようと?


「知っていますよ。旦那様。」


「愛してますよ。奥さま。」


やっぱり…その手には乗りません。


「知っていますよ。旦那様。」


「ほんとに…?」


むぅ。失礼な。


「知ってますよ?私のことが好きなことは…」


恥ずかしいじゃない。もぅ…。


「よかった。じゃぁ目を閉じて。」


…ん?………まぁいいけど……


「はい。閉じました。」


「よし。んっ んーんーっ」


何? 喉なんて鳴らして……


「ちょっとだけ…うるさいかもだけど、我慢してな?」


え? 何をするの? 怖い。


少し身構えてると

突然カズマが歌い始めた…


えーっ?!何?何?―――――




哀しみが伝わって

今、涙が頬をつたう。

幾つものあなたの苦しみを

少しでも分け合えたら…


遠く 遠く長い道でも

暗く冷たい空でも


いつまでも いつまでも

二人で一緒に

急がずに あせらずに

歩きたい。


言葉よりも 瞳。

何ひとつなくても…あなただけ。

ときめきより 安心。

走るよりも walking slow.


幾つもの想い出が

少しだけ胸に染みるけど

あなたとなら越えられる。

永遠を見つけられる。


幾千の時の中で

偶然あなたに染まって

喜びも 哀しみも

ずっと同じだけ。


あふれてる。 止まらない。

愛してる。


息がつまるくらい

こんなにもあなた 愛してる。

ずっと忘れないで

二人でずっと walking slow.


LaLaLaLa…


I say“I love you”

You say“So much!"


ずっと忘れないで

あなたのそばで walking slow.






―――――凄い――。


凄い綺麗な声。


誰の声よ?! 少年の声みたい。


えっ?!ってかこれカズマの声?!



凄い!かっこいい‼


ハスキーで高くて透き通った声。



何?誰の歌?

本当にすごくいい歌……


歌詞も…泣く……。



ほんと

何なの……?!




「ふぅ。ごめんな。お粗末っと。」



……………………………………。



「ごめんってば…。

耳元でうるさかったよな。ちょっと自己満だったんだ。ごめんな。もぅしないから。」



「嫌! 」


「だからごめん。

もぅこんなことしないよ。奥さま。」



「嫌ってば!

聴きたい‼ もっと聴きたい‼

カズマの歌、もっと聴きたいの!」



カズマは大きくため息を吐いた。


「気に入ってくれたってことかな?」


いやいやいや…反則でしょ。

格好良すぎるでしょ…


「気に入ったも何も…何?!この歌?!

凄い格好いいんですけど!

ってか、カズマの声!何?!

なんて綺麗なの?! びっくり!」



「そいつはよかったよ。

実は俺さ。ちっちゃい頃から歌が大好きでね。

その昔、下手の横好きって感じで歌を作ったことがあるんだ。

これはその歌。

いつか俺に、心から愛する嫁さんがもしももしも出来たら歌おうってずっと決めてたんだ。

今日、夢がひとつ叶った。


喜びも哀しみも、ずっと同じだけ分けあって、いつまでもいつまでも二人で一緒に、急がずにあせらずに、ゆっくりと歩いて行こう。

って歌なんだ。

なぁ。

お前はもぅ知ってるかもしれないけど、言わせて貰うよ。


本当に愛してるよ。奥さん。」



――――――泣く!――――――



莫迦カズマ‼

干からびて死んだらどうするの?!


顔もパンパンで見れなくなるじゃない?!



でも

嬉しいよー


愛してる。

愛してるカズマ。




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