第28話 ほどけた鎖



結局

私が気がついたのは13時を過ぎた頃だった。


ぼーっとする頭で天井を見てる…


えーっと…



まわりを見る。


…まわりを……


カズマ…が寝てる…


あっ。


思い出した。



とたんににやけてくる。


ふぇ~。

とうとぅしちゃったんだ~。


ふふふ。


カズマのものなんだー。


へへ。



嬉しくてたまりません。



カズマの顔をつついてみる。


動いた。かわいいやつ。


ふふふ。


もぅ…もぅ…もぅ…。


ひとのものになったんだ‼


私は

彼に必要なんだ!


へへへへ。


だいすきよ。カズマ。




もぅだめ。泣く。


――――――――。



****************



「おい。」



カズマに声をかけられる。



「おいってば。」



返事出来ません。

声出せない。



「…お前。 さてはバカだろう?!」


「失礼な?! 起きて第一声がそれですか?! たまには優しい言葉をかけてみるのも悪くはないのでは?!」



「人がぐっすり寝てるとこに真っ赤な顔して上に乗っかって何してんだって言ってんだこのエロリっ子‼」


「てへ。声出して良いですか?

もぅ我慢…限界…で…ぁん…いくっ……」


「やれやれ…とんだエロリストを開拓しちまったなぁ…」


「…ふぅ。……紅魔族はもともと非常に性欲が強いのです。」


「さすがにもぅやめとけ?!

ベッド干そうぜ…。」


「…仕方ないですね……夜まで我慢します…。」


「干からびますよ?!」


「ちっ」


「舌打ち?! そんなに?!」


カズマのケチ…。


「それよりさ。ミツルギが…

ってか、お前なんでミツルギと居たの?」


う。忘れてた。


「たまたまです。たまたまキョウヤが通りかかったところに私が居たのです。」


「ふーん。まぁいいけど。

約束してるんだって? ミツルギが起きたら言ってくれって。」


うぅ。ほんとに忘れてた。


「大したことじゃないんです。

あのままアクセルに帰って、キョウヤの手伝いをするつもりだったんです。」


「…ふーん。そうなんだ。

爆裂あとなのに、よくあそこまで行って歩いて戻ってたよな?

普段なら絶対おんぶコースだぜ?」


「キツかったですよ?何回か倒れかけましたけど、キョウヤが手を繋いでてくれたので。助けてもらったり。」


「…ふーん…。そうなんだ…。

んで、いつの間にミツルギとそんなに仲良しになってたんだ?」


え?!


あれ?!

何?この感じ。


「仲良しなんかじゃないですよ?!

ずっとどっか行けとか思っていましたが?!」


「…ふーん……。で、

いつの間にキョウヤって呼び捨てにしてんの?手を繋いで?」


………………まさかね。


「…彼がキョウヤって呼べって言うから…ですよ?…手も…彼が私を…気遣ってくれて……あのー。カズマ? 大丈夫ですか?」


「何が?」


「いえ……。」


「んで、約束してんじゃねーの?

行かなくていいの?」


…………………………。


「キョウヤが建てた…孤児院に来ないかって…これから何の……予定もないならって……あのー。カズマカズマー。ほんとに大丈夫…ですか…?」


「だから何がさ?」


「……………………?」


「で、行かなくていいのか?

僕がめぐみんを好きになるのは自由だろ?頑張るよ。とか言ってたぜ?

行かないの?」


…………………………ん?


「そういえば…自己アピール凄かっ……たですね…キョウヤの部屋に…誘われた…し……あのー。カズマカズマー。もしかして…ひょっとしたら…怒ってます?」


「何で?俺が?」


……………………………ん?…ん?


「で、行かないの?

部屋で待ってるんだろ?キョウヤくんが?」


「あのー。カズマ?

怒らないで聞いてくださいね。

もしかして…ひょっとして………

妬いてます…?」


「……妬いてるよ……すっごい。」





―かわいい―――――



……軽くいっちゃうとこだったじゃないですか!………危な。


私に?! やきもち?!…カズマが?!



「…何で……?」



「知らねーよ。」




―――嬉しい――――――泣く――



「なっ 泣くなって! 悪かったよ。

泣くな‼ こら!

もぅごめんって…泣くな!……めぐみん?! ごめんってば‼―なぁ――ごめん‼――――なぁめぐみん?!…… なぁって。―――――――――



****************



下に降りて

カズマが居間の扉を開くと…



「旦那。昨夜はお楽しみでしたね?」



「エリス?! ロ〇って勇者の居た世界の宿屋の主人みたいなこというのはやめて?! キャラ違うよ?!」


「一生に一回は言ってみたかったんですよねー♪」


「うるさいのよぁんぁんぁんぁん…。こんないたいけな娘どんだけいかせたら気が済むの?エロ勇者。」


「俺?! ほぼほぼ何もしてねーよ?!」


……恥ずかしいぃ……。


「めぐみん?……よかったでしょ?痛くなかった?」


「……痛かったですけど……すぐに凄い気持ちよく……。」


「さっきまでしてたんだもんねー?

ハマりすぎも毒よ?気をつけなさい。中で出されたんでしょ?このクズマが‼」


「搾り取られたのは俺だけど?!」


恥ずかしいってば……。


「まぁとりあえず、ごはんしましょ。めぐみんも朝から飲まず食わずでカズマ食べてんだから。」


ひーっ。

もうやめて~


私は台所に逃げる。


何しようかな?

エリスも居るし、昨夜のお詫びもかねて、エリス主体でいきましょうか♪


あっ


孤児院忘れてた……


まっいいか。カズマが妬くし。


ふふふ♪



****************



「エリスって何好きなんですかね…?」


女神っていっても

普通に好き嫌いはあるだろう…


でも

エリスって血行良さそうだし肉食っぽいですね。

メインは無難にチキンにしましょうか。


「チキンはソテーにしましょう。」



中が多少ヒリヒリするくらいで身体はすこぶる快調。

頭も…すごくすっきりしている。


……?


……不思議なくらい軽い…

胸の重みが…無い…?


――あぁそうか。



長年の胸のつかえや身体を縛りつけていたあの鎖が、あっさりと無くなっていることに驚かされる。


あれだけ私を苦しめ続けてきた鎖は、あのひとがいとも簡単に引きちぎってくれた。


カズマは

私が自分の大切なひとだと

キョウヤとのあんななんでもないことにすら妬…いてくれたりすらした。


私はカズマが愛する人間で居ていいんだ。

カズマの大切な 大事なもので居ていいんだ。

もぅ…自分をセーブしたりしなくてもいいんだ。


私は…

紅魔族で、人間が生み出した人造兵器です。

私の身体には、あなたたち人類が刻んだシリアルナンバーが刻まれています。

私はいつしかそのシリアルナンバーを忌まわしく思っていました。

ですが、それはもう私にとって、あのひとを護れる、たったひとつの自信へと変わりました。


あのひとを、アクアやダクネスを、めあねすを、私はこのたったひとつの自信で護れるのです。

感謝致します。私をこの世に、あのひとたちの居る世界に生み出してくれたことを。

心の底から感謝致します。


ありがとう。



「さぁみんなお腹を空かせてまってる。急ごう。」


~♪


身体が軽くて何もかもがはっきり見える。

鼻歌を歌いながら私は急ぐ。


私の大好きなあのひとたちに

とびっきりの愛を伝えるために。



****************




「ごちそうさまでした。めぐみんさん。ほんっとに美味しかったです‼ 凄い‼ カズマさんの言う通りカフェでもされるべきです‼絶対‼」


「お粗末さまでした。ありがとうエリス。あなたへのお詫びも込めてちょっと気合い入れてみたのです。夜は本当にごめんなさい。私はどうも怒りに抑制が出来なくて…。普段感情をあまり表に出さないですから…」


そう言って深々と頭を下げる。

それにアクアが


「もう良いのよめぐみん。あなたもすっきりした顔をしてることを見れば…ちゃんとふっ切れたみたいだし。良かったわ。」


「……?! 知っていたのですか?!アクア?!」


私は驚きを隠せず聞いた。


「知ってたわよ?ねぇエリス?」


エリスは微笑んで


「はい。あなたが紅魔族のことについてあれこれ引け目を感じて苦しんでいたのは、私も姉様も前から知っていました。そしてそれをちゃんと自分の力で乗り越えて、カズマさんや姉様の元に帰ってくることも。

ただ、そのきっかけを作ったのが私だったなんて…まったく及びもしませんでしたが…。女神としてお恥ずかしい限りですね。ごめんなさいめぐみんさん。」


と深々と頭を下げ反された。

カズマが私の頭を撫でて


「めぐみん。ともあれ無事でよかったよ。クソ駄女神から置き手紙見せられた時は、ほんと血の気が引いたぜ。お前を失うくらいなら俺は、何度だって世界ひっくり返してやり直してやるぜ? ほんと。」


エリスがぶんぶん手を振り


「それは勘弁してくださいね‼ あなたが言うと本当に洒落にならないです‼」


と半泣きだ。

私も嬉しくってもう前が滲んで…

カズマが


「まぁ今さらかもだけど…おかえりめぐみん。悪かったよ。バカな俺だけど、これからもよろしくな。奥さん。」


―――――――?! ……奥さん?!


「……奥さんって……?!」


「…奥さんだよ。俺の嫁さん。

……嫌か?」


急いでふるふると首を振る。が、声が出ない。あまりの驚きに口に手を当ててふるふる首を振るしか出来ない。

だめ。涙が。


「エリスに頼んだんだ。

この世界で重婚って出来ないそうだから、何とか出来ないのか?って…」


エリスが続く


「本来重婚は認められません。この国の規定でも違法に当たります。

ですが、まぁ半ば脅迫なのですが…先ほど現国王の元に私とアクア姉様

で仰々しく降臨してきまして…」


とペロっと舌を出してウィンクするエリスに続けてアクアが


「敬虔なエリス教徒である現国王に、脅し入れてきたのよ。魔王討伐の最大貢献者であるサトウカズマへの感謝が足りない。この先もっと大変な事態に世界が見舞われることになるけど、助かりたければ、サトウカズマへの感謝と多大なる恩赦で報いなさい。そうすれば必ずやこの世界はまた護られるでしょう。ってね。あなたを迎えに行く前にカズマに頼まれたの。こいつ、なかなか食えない男でしょ?」


と笑顔でカズマを指さす。

もう涙が止まらない。


カズマが顔を紅くして


「ということさ。改めて言うよめぐみん。

俺と生涯を共に生きてくれないか?

これからも泣かせたり、苦しめたりすることはたくさんあるかも知れないけど…

でも、お前は俺が護る。お前を背負って帰るのは俺だけだ。

お前は紅魔族だな?人造兵器?知るかよ。俺は日本人なんだよ。

ただお前を愛してるただの日本人だ。世界がどんだけお前をハミ子にしようが関係ねぇよ。

俺にはお前が必要なんだよ。

だから、俺と生涯を共に生きてくれ。俺と駄女神とダクネスの隣にずっと居てくれ。

絶対に幸せにしてやる。

愛してる。めぐみん。」


と手を私に出した。


私は声が出せず、ただただ号泣しながら震える手をなんとかカズマまで伸ばすと、カズマはがっちりと私の手を掴み引き寄せた。


「OKなんだなめぐみん?」


カズマの胸の中でうんうんと頷きながら、ゆっくりとカズマを見上げる。


「よし。じゃぁまだ早いけどエリス。やってくれ。」


エリスが笑顔で


「わかりましたカズマさん。」


と立ち上がる。

口に手を当てて泣きながら

訳もわからずエリスとカズマをきょろきょろと見渡していると…


「遅くなった‼すまん‼ まだ間に合うか?!」


バンっと音をたて肩で息をしたダクネスが飛び込んで来た。


びっくりし過ぎの連続で頭がついて行かない。

アクアが


「遅かったわねダクネス。もうプロポーズはしちゃったわよ?カズマさん。」


ダクネスが残念そうに


「あぁぁ。大事な妹の一大事なのに…。すまんめぐみん。しかしちゃんと頼まれたものは集めて来たからな。」


といって顔を上気させて窓の外を指差す。


カズマも得意そうに私を抱いたまま窓に連れていき


「見てみろめぐみん。俺たちを祝福してくれる証人だ。」


外を見ればたくさんの人が屋敷を取り囲んでいた。


昔からの冒険者仲間、ギルドのみんな、紅魔族のみんな、アイリスまで……


カズマが窓から叫ぶ。


「OKもらったぜみんな‼どーだ‼羨ましいだろダスト?! ハーレムだぜハーレム‼」


その言葉にアクアとエリスとダクネスが一斉にツっ込む。


「「「お前は懲りねぇな?!」」」


私は泣き笑いしながらそれを見ていた。


こんなに…幸せな気持ち…

生まれて初めてだ……。


頭の奥のほうでかん高い音をたてて何かが弾けた。

私はそれをすぐに理解した。


……鎖が…切れた…。



「さぁ降りようぜ‼ 俺たちの結婚式をするんだ‼」


そう言って力強く引くカズマの手を

ぎゅっと握り返し

私は生まれてから一番の笑顔で返した。


「はい。旦那様。」



****************



玄関を開け放ち

玄関ポーチの上にカズマと二人で立つ。


まわりを取り囲みみんながめいめいに声をかけてくる。


中にゆんゆんの姿が。

もう涙でぐちゃぐちゃ。不細工になってますよゆんゆん。


「めぐみん…。お幸せに…。」


そう言って頑張って笑顔を見せる彼女を抱きしめて二人で泣いた。


お父さんとお母さんとこめっこが泣きながら見ている。


私は…


私は…こんなに幸せでいいのでしょうか…?



アイリスが近寄る。


「お兄さまを泣かせたらあなたをゆるしませんからね?王国を挙げてあなたをぎゃふんと言わせに参りますから。」


「心得ました王女様。あなたとはいずれ決着をつけなければいけませんしね。」


と言い返してやった。


カズマが


「アイリス?お手柔らかに頼むぜ?!」


と言って私の手をとり

エリスとアクアとダクネスの前に。


「じゃぁそろそろ頼むよ。」


と言うとエリスが微笑んで頷く。

ダクネスは号泣しながら私を抱きしめる。

私もダクネスに抱きついて


「先にいきますねお姉ちゃん。あとから来てください。」

と泣いた。

アクアはそれを嬉しそうに微笑んで見ている。


「では、私、女神エリスと女神アクアと列席のみなさまの前におきまして、勇者サトウカズマと、めぐみんの結婚式をとりおこないます。どうかみなさま宜しくお願い致します。」


と言って

結婚式が始まった。



「汝サトウカズマは、この女めぐみんを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、

誓いますか?」


「誓います。」


「汝めぐみんは、この男サトウカズマを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


「誓います。」


「列席のみなさま、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた このお二人を、神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。


宇宙万物の造り主である父よ、

あなたはご自分にかたどって人を造り、夫婦の愛を祝福してくださいました。今日結婚の誓いをかわした二人の上に、満ちあふれる祝福を注いでください。二人が愛に生き、健全な家庭を造りますように。

喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見いだすことができますように。

また多くの友に恵まれ、結婚がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。

わたしたちの主神ゼウスと、女神アクアと、私、女神エリスとの御名において、この婚姻を認めます。

お二人の門出に祝福を‼」


「「「わーっ‼」」」


一斉にみんなが大歓声をあげる。


感極まって泣くもの、手をあげて喜ぶもの、たくさんの感情の渦の中心に私とカズマは立っている。



幸せで……


こんなに幸せで……



カズマが私に向き直り言う。


「いいんだよめぐみん。いいんだ。

お前は俺に逢うために生まれて来たんだ。

だから、お前の存在理由は俺にしろ。

それ以外何も要らない。蹴飛ばしてしまえ。

お前を絶対に幸せにしてやるから、お前は黙って爆裂しててくれ。

俺にはお前が必要だ。

愛してるよ。めぐみん。」


まわりの歓声が大きくなる

でも私にはもう届かない。


私の世界一愛する存在理由。

私の旦那様が私を抱きしめて離さないから。



胸の中で何度も何度も言った


「ありがとうカズマ。ありがとう。」


と。



もう鎖の跡も見えない。



これから

私を繋ぎとめるのは

このあたたかい手だけだ。



ありがとう。愛してるカズマ。




****************





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