第2話
あの小屋からどのくらい歩いたのだろう・・・
目的があった訳ではない。ただ聞こえた波の音と
反対の方向へ俺は歩いていた。足の裏に、指に痛みを覚える。
辺りも薄らと暗がり始めていた中に、俺の目に飛び込んできたのは
地肌のむき出しとなった崖と、その先にある住宅地だった。
「民家・・・家だ! 住宅地・・助かった!!」
俺はその崖をゆっくり、慎重に降りてゆく。幸いそれほどの
高さではなかったので、すぐに下に降りることが出来た。
疲れも忘れ、ひたすらに遠くに見えた。住宅地を目指した。
へとへとになりながらも、やっとのことでたどり着いた。
一戸建てやマンションが立ち並び、その光景はどこにでもある
普通の町並みだ。ただ、人が一人も見当たらないことをのぞいて
「おかしい・・・人の歩かない時間じゃないだろ・・」
早く誰かに助けを求めたい・・・
俺は周りを歩き回った。そして俺は遠くからでは分からなかった
事に気づく。周辺にある一戸建ての庭や、植え込みには
どの住宅にも手入れが施されていない。雑草が生え放題
道のアスファルトも細かくひび割れ、そこから腰くらいまでの
背の高い草がまばらに生えている。
戸建ての屋根も、よく見れば、うっすら緑が掛かって見える
おそらくはコケが生えているのだろう。
それと、どことなく異臭が漂っている。鼻を突き
鼻奥に残るような異臭が・・・
生活感がまるでない・・・
嫌な予感がする・・・だが他に頼りようがあるものもない。
俺は躊躇しながらも近くにあった一軒家のインターホンを押した。
「だよな・・・」
インターホンに反応がない。それどころか人が居るかもあやしい
もう随分と使われていないように見える。
俺はこの一軒だけでなく、周辺何件かに同じような事を
繰り返した。だが、反応は帰ってくることはなかった。
「ここもダメなのか」
半ば諦めかけていた時、ふと目に飛び込んできたのは
人の姿だ。家の庭先、間違いなくそれは人の後ろ姿だ!
よかった。助けを求められる!
「あの、すいません!警察を呼んでもらえませんかッ!!」
家の門から身を乗り出し、俺は叫んだ。だが、その住民は
こちらを振り向くどころか、気づいてもいないようだった
気が焦り、俺は無断で家の門を乗り越え、その人に近づいた
「・・・・・そりゃ反応ねぇよな」
薄暗く、よくわからなかったが、近づいてはじめて分かった
それは庭先にある短めの木に縄をかけ、首をつった人の後ろ姿だった。
首が伸びきり、足先が地面についている。おそらく首をつって
死んだ時に首の骨でも折れたのだろう。
足元には自殺した人間の汚物が散乱していた。
「ヴォエッ!!」
俺は思わずその場で嘔吐した。
なんだよこれ・・・そう思った矢先、音が聞こえてくる
家の中、塀の向こうの民家、道路側・・・あらゆるところから
音が聞こえる。ズズズ・・・と、引きずるような音
俺はすぐにさっきまでいた塀の場所まで戻った。
そこにいたのは青白く血色の悪い人間
それも一人ではなく、無数にいる
さっきも見た、俺を襲った人間と同じような血色の悪い肌
半開きの口、濁った目・・・
「冗談・・じゃ・・ないんだよな?」
頭の悪い俺でも、これだけはハッキリと分かる
この状況はインフラだとか、警察だとか、公共機関だとか
そんなものが完全に機能していない事が・・・
俺は民家の奥まで全力で走った!そしてそこにあった物置によじ登る!!
少し距離はあったが、勢いをつけて屋根の上に飛び乗った!
「ゥオアアアアアアッッ!!」
民家の庭先に数人が入り込んで、こちらを凝視している。
物欲しそうな目をして・・・
「クソッ! 何なんだよ一体ッ!!」
俺は民家の屋根から、隣にある民家の屋根へ飛び移ってゆく
その間も、俺を見ながら、追いかけてくる
飛び映っていく目の前に、マンションの非常階段が見えた。
ここからならギリギリ飛び移れるだろうか?
そんな疑問もすぐに振り払う。どうせ選択肢はない
俺は勢いを付け、費用階段の手すりに飛び移る!!
「ふんぬっ!!!」
手がかかった。俺はよじ登り、そして下を確認する。
どうやらさっきの奴らは、まだ諦めてはいないらしい。
俺は何も考えず、らせん状になった非常階段を
上へ上へと登っていく。その先には非常用の扉。
だが運が悪い。扉は鍵がかかり、ビクともしない
そうなると逃げる場所は・・俺は近くにある梯子に目を向ける。
垂直跳びでなんとか手が届く。俺はそのはしごを上り、屋上に出た。
無骨に貼りめぐる錆び付いた配管。
そして錆だらけの重そうな扉の塔屋
さっきの奴らも、この屋上までは上がってこないんじゃ
ないだろうか。俺は屋上から耳を澄ます。
音は聞こえない。屋上からそっと顔をだし下を覗く
どうやら俺を見失ってくれたみたいだ。
ここまではいいが、これからどうしたものか。
何かないかと、屋上を見ていて気づく。
屋上の隅の方にゴミが散乱している。パッと見でわかる缶詰や乾麺の袋
屋上にこんなゴミの塊は不自然だ。と、言うことはここには人が居る
俺は塔屋に目を向け、扉に手をかけ、ゆっくりと開けた
「あの・・・すいません・・・」
虚しく響く自分の声。どうやら人はいないようだ。
カタンッ
何かが足に当たった。俺はそれを拾い上げる。懐中電灯だ。
黄色い色で側面に取っ手が付いていて、回せる。
どうやらゼンマイ式のようだ。
俺はゼンマイを回し、懐中電灯を点ける。そして塔屋内を照らした
機械室として使われていたのだろう。俺には分からない機械が並んでいる
その奥、毛布が置いてある。横脇にはお菓子の袋も見て取れる。
いつまでかは分からないが、ここで誰かが寝泊まりしていたのだろう
その痕跡がある。つまりここは安全である可能性があるという事だ
外は既に闇に包まれている。もう外にいる事自体が危険だろう
この格好では夜風は冷たく、肌を刺す
俺は扉に鍵を掛け、薄汚く臭う毛布を体に巻いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます